抄録
心血管の形成に重要とされる神経堤および心内膜床に発現が認められるホメオボックス遺伝子Msx1およびMsx2のノックアウトマウスを作製し,心血管発生におけるMsx1およびMsx2の機能を解析した.Msx1およびMsx2の単独欠損マウスでは心血管の発生異常は認められなかったが,Msx1・Msx 2両欠損マウスでは多様な心血管の発生異常が出現した.心血管の発生異常は,大別して,心室流出路の奇形(大血管転位,両大血管右室起始,総動脈幹症),心室流入路の奇形(三尖弁閉鎖,両房室弁左室挿入),大動脈弓の奇形(重複大動脈,左鎖骨下動脈起始異常など),心室中隔欠損などが認められた.これらの発生異常は,大血管転位の発生頻度が両大血管右室起始より高いという点を除けば,ニワトリ胚神経堤のアブレーションで出現する奇形とほぼ一致することより,Msx1・Msx2両欠損マウスの心血管の発生異常は神経堤細胞の異常に起因することが考えられた.一方,Msx1・Msx2両欠損マウスでは心内膜床の上皮-間葉形質転換の障害が考えられ,これに起因する心奇形も認められた.ノックアウトマウスによりMsx1およびMsx2の個体レベルでの機能が明らかになったが,Msx1およびMsx 2の標的遺伝子を含めた下流遺伝子を同定し,Msx 1およびMsx2が関与する心血管形成の遺伝子機構を解明することが今後の課題になると思われる.