1998 年 30 巻 Supplement4 号 p. 44-48
分子生物学的手法の医学への応用によりQT延長症候群(LQT)の多くにおいて心筋の活動電位に関与するイオンチャネルの遺伝子異常が報告されている.今回,我々は典型的な先天性LQTのみならず,2次性LQTにもイオンチャネル遺伝子異常が関与しているのではないかと考えPCR/SSCP(polymerase chain reaction/single strand comformation polymorphism)法を用いて遺伝子異常のスクリーニング検査を行った.【症例】16歳と9歳の姉妹.心電図異常の精査を希望し来院.KvLQT 1のPCR/SSCPで異常バンドパターンがみられ,塩基配列を決定したところCがTへの一塩基置換がみられた.この変異はアラニンからバリンへのミスセンス変異であった(A 212 V).姉妹とも同一の遺伝子異常がみられ,ともにKvLQT1の点突然変異をもつヘテロ接合体であった.ミスセンス変異によりイオンチャネルの機能異常をきたし心筋の活動電位時間の延長を生じ心電図上QT延長を起こしていると考えられた.【まとめ】典型的な先天性LQTではないと考えられた症例において先天性LQTにみられるKvLQT 1の異常と同一遺伝子異常が判明した.遺伝子異常スクリーニング検査がLQTの診断,治療方針の決定に有用であった.