1998 年 30 巻 Supplement4 号 p. 79-83
神経性食欲不振症(AN)の合併症の1つに,torsades de pointes(TdP)がある.電解質異常,栄養障害の関与が示唆されているが,その発生機序は明らかでない.【症例】24歳,女性.14歳より食行動異常,高度のるいそう(標準体重-33%)が認められるようになり,精神科の近医でANと診断された.1997年3月下旬より,嘔吐,下痢が出現し,4月13日,意識消失発作の反復のために緊急搬送された.入院時,著明な低カリウム血症(1.9mEq/L)と心電図上QT延長,TdPが認められた.TdPの反復から心室細動に移行し,心肺蘇生が行われた.カリウム製剤投与による血清カリウム値正常化に伴い,QT間隔は正常化し,TdPは抑制された.血清カリウム値正常化後に行った薬剤負荷試験では,isoprotereno1負荷により,QT間隔が延長した.QT延長に,カリウムチャネルと交感神経賦活化との関与が推測され,本例には後天性QT延長症候群と先天性QT延長症候群の両症候群の特徴が認められた.