2002 年 34 巻 5 号 p. 407-422
症例は68歳女性.労作時胸痛を主訴に入院.心電図上,I,II,aVL,aVF,V2からV6誘導で陰性T波と左室肥大所見を認め,心エコー図では左室中部中隔の肥厚と心尖部の収縮期外方運動を認めた.非対称性中隔肥大(ASH)や,僧帽弁の収縮期前方運動(SAM)は認めなかった.運動負荷タリウム心筋シンチグラムでは,心尖部の一過性灌流欠損を認めた.冠動脈造影では有意な器質的狭窄を認めず,左室造影にて収縮末期の左室中部閉塞と心尖部の外方運動を認め,左室流出路と心尖部の最小圧較差は111mmHgであった.右室中隔からの心筋生検にて肥大心筋細胞と心筋細胞の錯綜配列が認められた.以上より,心室中部閉塞性肥大型心筋症と診断した.後日,カテーテル検査にて,圧ワイヤーおよびドプラワイヤーを用いた薬剤投与前後の圧較差,および冠血流の変化を検討した.その結果,β遮断薬とジソピラミドの併用が左室内圧較差の減少に有効であり,2薬剤併用内服によるトレッドミル運動負荷検査では運動耐容能の向上が認められた.壁肥厚のない心尖部心筋虚血は,心尖部での著明な収縮期血圧の上昇による後負荷増大が関与している可能性が考えられた.