抄録
症例は56歳,男性.2週間前から連日,夜3時ころに胸部不快で目覚めるようになり,日中にも同様の胸部症状が出現したため救急外来を受診した.来院時の心電図は頻脈性心房細動(心拍数130/分)であり,rate control目的でビソプロロールが処方された.同日夕方内服後に胸部不快が出現し,意識消失,痙攣に至ったため近医へ救急搬送となった.頭部CT,神経学的所見上異常なく,当院へ転院搬送中より胸部不快が再発し,搬入時には心房細動,完全房室ブロック,II,III,aVFの著明なST上昇を認めた.処置中に心室細動へ移行したため,電気的除細動を行い除細動に成功し,ST変化は基線へと復した.
連日の胸部不快は狭心症発作であり,新たに投与されたβ遮断薬で右冠動脈のspasmが誘発され完全房室ブロック,心室細動に至ったと考え,硝酸薬,カルシウム拮抗薬での加療を開始し,以後症状は出現しなかった. 後日行った冠動脈造影では器質的な有意狭窄を認めなかった.心室細動の既往があるためアセチルコリン負荷は行わなかったが,BMIPP心筋シンチで下壁に著明な取込み低下があり,右冠動脈領域の一過性の高度虚血が示唆され,Spasmに一致する所見と考えた.β遮断薬がspasmを誘発する可能性があることを改めて認識させられた1例を経験した.β遮断薬をrate controlや降圧目的で投与する際には,冠攣縮性の狭心症状がないことを確認するべきである.