2007 年 39 巻 10 号 p. 912-917
61歳,男性.冠危険因子は高血圧,糖尿病.2006年8月上旬,飲酒後より胸部不快感,嘔気が出現し,1時間後,当院救急外来受診.来院時症状は持続していたものの,心電図上有意なST変化なく,心筋逸脱酵素の上昇なく,胸部造影CTで大動脈解離も否定された.症状が持続するために経過観察入院.翌朝,症状は軽快し,心電図の明らかな経時的変化を認めなかったが,心筋逸脱酵素の上昇を認めたため,急性心筋梗塞の診断にて緊急冠動脈造影を施行した.右冠動脈入口部は通常部位に認めず,左冠動脈から右冠動脈への側副血行を認め,右冠動脈から肺動脈へ造影剤の流入を認める右冠動脈肺動脈起始症であった.責任病変は右冠動脈に主要な側副血行を供給している回旋枝#13の90%狭窄であり,引き続き同部位に経皮的冠動脈形成術(percutaneous coronary intervention;PCI)を施行した.後日,冠動脈MS-CTでも肺動脈から起始する右冠動脈を確認した.術後の経過は良好で第15病日に退院した.
右冠動脈肺動脈起始症は左冠動脈肺動脈起始症(Bland-White-Garland症候群;BWG症候群)に比しさらに報告が少なく,2つの疾患の予後は異なる.本例は急性冠症候群(ACS)を契機に発見された稀な症例であり文献的考察を含め報告する.