抄録
われわれは進行性筋ジストロフィー症に合併した完全房室ブロックの患者にペースメーカを植え込み,高度の心筋変性を有していたにもかかわらず,14ヵ月間ペーシングという成績を得た.
患者は26歳の男子で躯幹,四肢の筋萎縮が著明である.心電図は心拍数毎分38の完全房室ブロックを呈している.イソプロテレノール投与が無効のためペースメーカ植え込みを施行し,同時に右室心筋,腓腹筋の生検を行なった.心筋,腓腹筋とも筋原線維には高度の萎縮性変化があり間質の増殖が著明であった。術後心拍出量は3.5t/分と術前に比較して約200%の増加を示し,良好な経過をとっていたが,10ヵ月頃から心不全症状が現われ術後14ヵ月で死亡した.一般に高度の心筋変性を有し,心不全症状を伴った症例の予後は良くない.しかし,原疾患を充分に認識し,アフター・ケァーを確立すれば長期延命も可能と思われる.