1977 年 9 巻 3 号 p. 245-250
47歳女子の中隔側を除く左房壁全域に及ぶ高度の石灰沈着を伴った僧帽弁狭窄症に対し人工弁置換術(MVR)を施行した.しかし術後の症状の改善が少なく,心不全を生じやすい状態が持続した.この原因として石灰化castによる左房壁のcomplianceの低下を推測した.この観点からMVR後3年8ヵ月に石灰化castの剥皮摘除術を施行した.これにより初めて自他覚症状の改善が得られた.
従来,リウマチ性弁膜症に合併する石灰化左房はまれな合併症とされていたが,最近では病悩期間の長い,重症例にも積極的に開心術(外科的治療)を行うようになっており,今後本症合併別に遭遇する機会が多くなると思われる.そこで,本症の一自験例を報告するとともに本症の血行動態に及ぼす影響や外科治療上の問題点に関して若干の考察を加えた.