両側軽度感音難聴に加えて,家庭環境の変化をきっかけに機能性難聴を併発した高校生女児1名を対象に,純音・語音聴力検査,ABR・DPOAE検査を実施した。さらに,機能性難聴に特有の現象である同側マスキング下の異常な閾値シフトを利用したTIN(tone-in-noise)テストを試み,真の閾値推定への適用について検討を行った。本症例において,(1)純音の見かけの閾値(静寂下)と同レベル(実効マスキングレベル)の狭帯域ノイズを負荷したところ,全測定周波数において10~20 dBの異常な閾値シフトが生じた。(2)ノイズレベルを下降させると,閾値シフト値も一定の比率で下降した。(3)ノイズ検知レベルの下限値は,機能性難聴発症前の純音聴覚閾値に近似した。ABRの結果も発症前の純音聴覚閾値と整合していたことから,本症例においてはTINテストのノイズ検知レベルから周波数別に真の閾値を推定可能であったと考えられた。