小児耳鼻咽喉科
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総説
咽後膿瘍類似の所見を呈する川崎病
室野 重之
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2024 年 45 巻 2 号 p. 111-115

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Abstract

川崎病では咽後膿瘍に類似する画像所見を呈することがある.これまでの日本語論文28編51例について考察し,以下の特徴を見出した.年齢の平均は6.0歳,中央値は5.0歳であり,一般的な川崎病の好発年齢より高い.造影CTでは,咽頭後部の低吸収域は辺縁の造影効果が乏しいことが大半だが,辺縁の造影を見ることもある.しかし,川崎病では穿刺や切開により膿が確認されることはほとんどない.とはいえ咽後膿瘍との鑑別は重要であり,小児科医と適切に連携して診療に臨む必要がある.あわせて,典型例と,切開による排膿が見られないことから不全型川崎病の診断に至った非典型例を提示した.

はじめに

川崎病も咽後膿瘍も主に乳幼児に見られる急性熱性疾患であるが,その特徴は川崎病が原因不明の全身の血管炎であるのに対し,咽後膿瘍は咽頭後リンパ節の化膿性リンパ節炎からの膿瘍形成であるとされる1,2).川崎病では冠動脈瘤の,咽後膿瘍では気道閉塞や降下性壊死性縦隔炎の続発により,どちらも緊急性の高まる疾患である.一方,治療の主体は川崎病では免疫グロブリン静注療法やアスピリンであるのに対し,咽後膿瘍では抗菌薬や切開排膿であり,対照的である.どちらも頸部リンパ節腫脹をきたし得るうえ,川崎病ではCTスキャンにおいて咽後膿瘍に類似した低吸収域を示す例が散見されるため,両者を適切に鑑別する必要がある.

川崎病の疫学

川崎病の診断の手引き改訂第6版(2019年5月)では,1)発熱,2)両側眼球結膜の充血,3)口唇,口腔所見,4)発疹,5)四肢末端の変化,6)急性期における非化膿性頸部リンパ節腫脹の6つを主要症状として,冠動脈瘤の有無やいくつかの参考条項も考慮し確実例や不全型を診断する3).川崎病の全国調査によると2021年と2022年の患者数はそれぞれ11,597人と10,333人であり,その合計21,930人において4歳以下が89.0%を占める一方,5歳以上は11.0%にすぎない.とりわけ,10歳以上は283人でありわずかに1.3%を占める程度である4).この21,930人において定型例は80.2%,不全型は18.7%であるが,4歳以下ではそれぞれ81.0%,17.9%であるのに対し5歳以上ではそれぞれ74.0%,24.7%であり不全型と診断される例が多いことがわかる4)

咽後膿瘍類似の所見を呈する川崎病の特徴

咽後膿瘍に類似した画像所見を示す川崎病の報告が散見され,診断の手引きにおいても,不全型の診断に意義のある参考条項の「4.その他,特異的ではないが川崎病で見られることがある所見(川崎病を否定しない所見)」の一つに咽後水腫が第6版から追加されている3)

川崎病に伴う咽頭後間隙の低吸収域は,膿瘍ではなく血管炎に伴う蜂巣炎であり,急性期に過剰産生された炎症生サイトカインや,リンパ球系細胞の活性化が関与しているとされる5,6).これまでの会議録を除く日本語論文28編51例の報告をまとめたものを表1に示す2,733).2003年から2021年まで年に0~8例の報告がある.男児35例と女児16例であり,年齢の平均および中央値はそれぞれ6歳0か月,5歳であった.その分布は1歳から16歳までにわたるが,3歳から6歳で30例(59%)を占める.血液検査での白血球数とCRPの平均はそれぞれ19,319/μL,14.7 mg/dL(いずれも記載のある43例の平均)である.穿刺や切開のいずれも施行されていないものが38例あり,穿刺を施行されたものは6例,切開を施行されたものは7例である.そのうち,穿刺を施行された1例と切開を施行された1例においてのみ膿が確認されている.前者は2歳0か月の男児で,血液検査での白血球数は19,000/μL,CRPは15.1 mg/dLであり,造影CTで辺縁の造影効果が見られている31).後者は1歳5か月の女児で,血液検査での白血球数は23,000/μL,CRPは18.0 mg/dLであり,造影CTは未施行である9).51例のうち明らかに膿瘍であったのはこれらの2例のみであり,咽後膿瘍様の所見を呈するも,実際に膿瘍を形成する症例は少ないと言える.

表1 日本語論文で報告された51例のまとめ

項目 結果
性別(人) 男性35 女性16
年齢(歳) 平均(標準偏差) 6.0(3.3)
中央値 5.0
分布 1~16
最頻値 5
白血球数(/μL)A) 平均(標準偏差) 19,319(6,711)
中央値 18,600
分布 9,200~45,200
CRP(mg/dL)A) 平均(標準偏差) 14.7(7.1)
中央値 13.9
分布 5.1~34.0
主要症状の数B,C) 平均(標準偏差) 4.8(0.9)
中央値 5.0
分布 3~6
最頻値 5
川崎病と診断した病日D) 平均(標準偏差) 6.5(2.2)
中央値 6.0
分布 4~14
最頻値 5
造影CTE) 辺縁の造影なし 37
辺縁の造影あり 8(一部あり3を含む)
未実施 6(MRIのみ4を含む)
穿刺・切開 なし 38
穿刺を実施 6(うち排膿あり1)
切開を実施 7(うち排膿あり1)

文献2733より作成.A)結果未掲載の8例を除く,B)診断の手引き第6版,C)結果未掲載の12例を除く,D)結果未掲載の11例を除く,E)掲載画像を見ての判断も含む.

咽後膿瘍類似病変を伴った川崎病症例について,会議録も含めた国内外40例を検討した2012年の服部らの報告では,全例で頸部リンパ節腫脹を認めていた23).また,40例中10例で造影CT所見に言及されており,そのうち3例ではring enhancementを伴っていたが,いずれも膿瘍ではなく川崎病に伴う炎症所見を反映した咽後膿瘍類似病変であるとされる23).一方,40例中11例で切開を施行されており,3例において実際に排膿を認めたとしているが,造影CTとの関連は言及されていない23)表1に示すこれまでの51例の報告のまとめでも,造影CTを施行された45例中5例においていわゆるring enhancementが示されているが,3例は穿刺や切開は未実施であり,1例は切開されるが排膿はなく,1例において穿刺により排膿が確認されたのみである13,19,31)

咽後膿瘍の疑いのある川崎病10例と疑いのない川崎病267例を比較した報告では,前者は年齢が有意に高く(平均4.5歳 vs 1歳,p=0.0001),リンパ節腫脹を高率に認め(100% vs 61%,p=0.03),白血球数(平均21,500 vs 13,300,p=0.0001)およびCRP(平均11.1 vs 5.6,p=0.015)が有意に高い一方,性別(p=0.83)や発症から川崎病の診断までの日数(4.5日 vs 4日,p=0.51),冠動脈異常(0% vs 3.7%,p=0.81)についての有意差はないとされる34).これまでの51例の報告のまとめでも,平均年齢は6歳であり,血液検査所見も白血球数(平均19,319),CRP(平均14.7)とも類似している(表1).また,表1には示していないが初期症状の記されていた45例中43例(96%)が頸部症状(頸部腫脹,頸部痛)を呈していたことも類似している.診断の手引きにおいて備考の第3項に「非化膿性頸部リンパ節腫脹(超音波検査で多房性を呈することが多い)の頻度は,年少児では約65%と他の腫瘍症状に比べて低いが,3歳以上では約90%に見られ,初発症状になることも多い.」と記されていることも,これを裏付けている3)

症例提示

症例1:10歳の男児

主訴:頸部腫脹,発熱

既往歴:鼠経ヘルニア(術後)

現病歴:X−5日から右耳下部の痛みと腫脹,発熱を認め,近医(小児科)においてセフジニルを処方されたが改善しなかった.その後,腋窩にも皮疹が出現したため,X日に当院の小児科へ紹介となった.頸部造影CTにおいて頸部化膿性リンパ節炎および咽後膿瘍が疑われたため,同日当科を受診した.

身体所見(耳鼻咽喉科):軟口蓋や咽頭後壁に発赤や腫脹を認めなかった.右頸部に軽度の腫脹を認めた.

血液検査所見:白血球 11,000/μl(好中球88%),CRP 20.9 mg/dL,赤血球 437万/μL,Hb 12.7 g/dL,Ht 36.8%,血小板 15.6万/μl,Na 138 mEq/L,AST 31 U/L,ALT 56 U/L,総ビリルビン 0.6 mg/dL,総蛋白 6.5 g/dL,アルブミン 2.6 g/dL.

頸部造影CT(図1):咽頭後部に低吸収域を認めるが,辺縁の造影効果は見られなかった.右頸部に造影効果のある複数のリンパ節を認めた.

図1 症例1の頸部造影CT

咽頭後部に低吸収域を認めるが,辺縁の造影効果は見られない.右頸部に造影効果のあるリンパ節腫脹が見られる(*).

経過:小児科医の診察において,発熱,両側眼球結膜の充血,頸部リンパ節腫脹,不定形発疹が確認されたが,口唇・口腔咽頭の発赤と四肢末端の変化は観察されなかった.CT所見より咽後膿瘍を積極的に疑うものではなかったが,小児科医との相談において,冠動脈病変を伴わなくとも咽頭後部の病変が膿瘍ではなく水腫であることが確認されれば不全型の川崎病と診断されうるとのことであり,当院初診日に全身麻酔下に手術を行った.咽頭後壁の3か所より穿刺をしたが膿の吸引はなく,さらに咽頭後壁の正中部を切開しても排膿は見られず,処置はそこまでとした.抗菌薬はX日からX+3日までアンピシリン・スルバクタムおよびバンコマイシンが使用された.小児科において免疫グロブリン静注療法が行われ,アスピリン内服も開始された.

症例2:1歳の女児

主訴:頸部腫脹,発熱

既往歴:特記すべきことなし

現病歴:Y−4日から発熱があるも近医(小児科)において対症療法による経過観察を受けていた.Y−1日に右頸部腫脹があり前医(小児科)へ紹介され,扁桃周囲膿瘍が疑われた.Y日に当院小児科へ転院となり,同日当科を受診した.

身体所見(耳鼻咽喉科):右側後口蓋弓から咽頭後壁にかけて腫脹を認めた.喉頭には浮腫はなく気道は保たれていた.右頸部に腫脹を認めた.

血液検査所見:白血球 15,300/μl(好中球83%),CRP 7.9 mg/dL,赤血球 391万/μl,Hb 9.8 g/dL,Ht 29.6%,血小板 37.8万/μl,Na 130 mEq/L,AST 245 U/L,ALT 101 U/L,総ビリルビン 0.4 mg/dL,総蛋白 6.3 g/dL,アルブミン 3.1 g/dL.

頸部造影CT(図2):右咽頭後部リンパ節の腫脹を認めるが,扁桃周囲膿瘍を疑う所見は見られなかった.咽頭後部に低吸収域を認めるが,辺縁の造影効果は見られなかった.右側優位の両頸部に造影効果のある複数のリンパ節を認めた.

図2 症例2の頸部造影CT

右に優位な両側の咽頭後リンパ節の腫脹を認めるが,膿瘍形成はしていない(矢印)(左図).咽頭後部に低吸収域を認めるが,辺縁の造影効果は見られない(右図).

経過:膿瘍形成は積極的に疑われないこと,気道は保たれていることから保存的治療を開始した.小児科医の診察において,Y+1日に口唇の発赤,両側眼球結膜の充血,発疹が観察され,発熱,頸部リンパ節腫脹とあわせて川崎病と診断された.抗菌薬はY日からY+3日までアンピシリン・スルバクタムおよびバンコマイシンが使用された.小児科において免疫グロブリン静注療法が行われ,アスピリン内服も開始された.

非典型的な川崎病の診断における耳鼻咽喉科のかかわり

咽後膿瘍が疑われる場合,必ずしもその時点で川崎病の診断がついているわけではなく,小児科医と連携しなければならない.抗菌薬への反応が乏しい場合は,切開排膿を考慮しつつ,川崎病の可能性を念頭に置く.先に提示した症例1は川崎病の好発年齢から大きく外れている10歳であるうえ,診断のための主要症状も4つを認めるにとどまっていた.冠動脈病変は確認されなかったため,診断の手引きにおける「他の疾患が否定され,参考条項から川崎病がもっとも考えられる場合は,不全型川崎病と診断する.」が適用され,造影CTで辺縁の造影効果は見られないものの咽後膿瘍の否定もあり手術を行い,不全型川崎病の診断から適切な薬物療法へとつなげることができている.一方,症例2は川崎病の好発年齢である1歳であり,主要症状も5つを認め確実例の診断がついている.

まとめ

咽後膿瘍に類似する所見を呈する川崎病のこれまでの会議録を除く日本語論文28編51例の報告をまとめて特徴を見出した.咽頭後部の低吸収域は辺縁の造影効果が乏しいことが特徴であるが,辺縁の造影を見ることもある.しかし,川崎病では穿刺や切開により膿が確認されることはほとんどない.とはいえ咽後膿瘍との鑑別は重要であり,小児科医と適切に連携して診療に臨む必要がある.あわせて,典型例と非典型例を提示し,後者においては切開による排膿が見られないことから不全型川崎病の診断に至った.

謝辞

ご協力いただきました福島県立医科大学耳鼻咽喉科学講座の橋本穂奈美先生,佐藤廣仁先生,菊地大介先生,鈴木政博先生,同小児科学講座の浅野裕一朗先生,青柳良倫先生,陶山和秀先生,桃井伸緒先生,細矢光亮先生,郷 勇人先生に深謝いたします.

利益相反に該当する事項:なし

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