小児耳鼻咽喉科
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原著
COVID-19大流行が小児耳鼻咽喉科の手術数に与えた影響の検討
丸田 剛史小川 真山下 麻紀須藤 貴人岡本 周祐岡崎 鈴代三代 康雄
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2024 年 45 巻 2 号 p. 129-138

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Abstract

COVID-19大流行が小児耳鼻咽喉科領域の手術症例数に与えた影響を検討するため,2019年から2023年までの5年間に当科で施行された全身麻酔下手術の術式の月別症例数を調査し,COVID-19新規陽性者数との関連性,および年別症例数の推移について調査した.その結果,月別総手術数は初回の緊急事態宣言の発令直後に急減し,その後の緊急事態宣言の発令の度に減少していた.また術式別の年別症例数の推移に関して,鼓膜チューブ挿入術(TTI)/アデノイド切除術(Ad)/口蓋扁桃摘出術(T)の症例数が2020年に急減した後に2022年まで漸次的に減少した.2023年に,Ad/Tはベースラインまで回復を示した一方,TTIは微増に留まった.COVID-19の大流行以降の症例数減少の有無,およびその後の回復の程度の術式間差違の原因として,患者の受診抑制のみでなく,大流行に伴う適応疾患の罹患者数減少の可能性がある.

Translated Abstract

To investigate the effects of the COVID-19 pandemic on the number of surgeries performed in the field of pediatric otorhinolaryngology, we reviewed the medical records of pediatric patients who underwent ENT surgery under general anesthesia from 2019 to 2023, and investigated the association between the monthly trends in the total number of patients and new COVID-19-infections in Osaka Prefecture, followed by the annual trend of the number of patients receiving each surgical procedure. The monthly total number of patients showed an abrupt decline immediately after the first declaration of a state of emergency in Japan, followed by repeated decreases after each of the subsequent three declarations. Regarding the annual trend in the number of patients, the total number showed an abrupt fall in 2020, followed by a gradual decrease from 2020 to 2022, then a subsequent slight increase in 2023. Regarding each surgical procedures, the numbers of patients undergoing adenotomy, tonsillectomy, and tympanostomy tube insertion progressively decreased from 2019 to 2022. In 2023, both adenotomy and tonsillectomy showed a recovery to baseline, whereas tympanic tube insertion showed only a slight increase. In particular, the performance of tympanic tube insertion without adenotomy showed a further decrease even in 2023, while the co-performance of tube insertion and adenotomy showed a recovery to baseline. In contrast, tympanoplasty and tracheotomy showed a poor change during the five years. In conclusion, the annual trends in the number of patients receiving surgeries over a 5-year period that included the COVID-19 pandemic, the presence or absence of an abrupt fall in 2020, and the presence or absence of a subsequent recovery in 2023, differed according to the surgical procedure, which can be attributed to not only the status of patient visits to medical institutes, but also to the incidence rate of diseases as an indication for surgery.

はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2019年末に中国において発生し,2020年1月16日に本邦で初の患者の発生が報告された後,瞬く間に全国に感染が拡大した.また同年4月7日に政府より緊急事態宣言が発令されて外出の自粛などの行動制限が要請され,これに伴って,医療機関への外来受診患者が急減した.この際,特に上気道感染の患者が数多く受診する耳鼻咽喉科,および小児科の診療所では,他の患者からCOVID-19が感染することを恐れて,一層の受診控えが生じた.実際,初回の緊急事態宣言発令直後の2020年4–5月においては,耳鼻咽喉科・小児科の診療所における診療報酬明細書確定件数,あるいは調剤レセプトの処方件数が前年同月比で約40%減少したことが報告されている1,2)

診療所の受診者数の減少は,病院への紹介患者の減少,さらには手術患者の減少に繋がる.実際,Jones et al.3)は,USAの大学病院の小児耳鼻咽喉科における,COVID-19大流行開始前後12ヶ月ずつの期間の外来受診者数,および手術症例数を比較し,大流行後にそれぞれ15.63%,および19.86%の減少が認められたことを報告している.また大流行開始以降の小児耳鼻咽喉科の手術施行数の減少に関して,特にアデノイド切除術/口蓋扁桃摘出術の併施46),および鼓膜チューブ挿入術4,7,8)の減少が顕著であったことが報告されている.とりわけLloyd et al.4)は,USAの三次医療機関の小児病院における手術件数の横断研究の結果,COVID-19大流行前後の2019年から2021年までの3年間において,2020年/2021年の小児耳鼻咽喉科手術件数の減少幅がそれぞれ87.57%/36.86%であり,特にアデノイド切除術/口蓋扁桃摘出術の併施,および,鼓膜チューブ挿入術の施行件数は2021年になっても大流行前の2019年のレベルまで回復していなかったことを報告している.しかしながら,2022年以降の小児耳鼻咽喉科手術の施行数の推移について調査した研究は,著者が渉猟した限り見当たらなかった.

現在,本邦でのCOVID-19の流行は拡大と鎮静を繰り返して収束し,2023年5月にCOVID-19の位置づけが5類感染症に移行されて,約1年が経過している.この間,特に5類感染症移行に伴って外食やイベントが再開されて人々の旧来の生活様式が復活し,同時に当科では小児の耳鼻咽喉科手術の施行症例数が急速に回復しつつある.しかしながら,COVID-19大流行の収束以降の小児耳鼻咽喉科手術の施行数の変化については未だ詳細な解析が行われていない.今回我々は,COVID-19大流行開始の以前から5類感染症移行以降を含めた5年間における小児耳鼻咽喉科手術の施行症例数の年別推移と,COVID-19罹患者数の推移との関連性について調査した.

対象と方法

2020年3月の本邦でのCOVID-19大流行開始と2023年5月の5類感染症移行を含む,2019年1月から2023年12月までの5年間を調査対象期間とし,電子カルテの記録を基に,大阪市立総合医療センター小児耳鼻咽喉科で15歳未満の患児に施行された全身麻酔下手術の全術式の月別施行症例数を調査した.また比較のために,成人を対象とする耳鼻咽喉科頭頸部外科,および当施設全体の手術施行症例数も調査した.本検討においては,手術の施行数を施行件数ではなく施行症例数でカウントした.例えば鼓膜チューブ挿入術の場合,片側施行でも両側施行でも同じ1例とみなした.その結果,上記の5年間において,当院小児耳鼻咽喉科で施行された全身麻酔手術の総手術症例数は1357例であった.また同期間における耳鼻咽喉科頭頸部外科,および病院全体の全身麻酔手術の総手術症例数はそれぞれ3155例,および49666例であった.

COVID-19の流行の状況については,厚生労働省の「データからわかる―新型コロナウイルス感染症情報―」9)のデータを閲覧し,大阪府の日別新規陽性者数を基に月別新規陽性者数を算出した.その後,月別の当科の手術の総施行症例数とCOVID-19の新規陽性者数との関連性について検討した.

また小児耳鼻咽喉科の個別の術式の施行症例数として,アデノイド切除術(以下Ad),鼓膜チューブ挿入術(以下TTI),口蓋扁桃摘出術(以下T),気管切開術(以下TR),喉頭気管分離術(以下LTS),鼓室形成手術(以下TP),人工内耳植込術(以下CI)の月別の術式別施行症例数を集計し,年別の手術施行例数を算出した.特にAd,T,およびTTIの年別症例数の推移に関しては,連続する2年の間で12ヶ月の月別施行症例数を比較し,正規分布に従わない場合のt検定を用いて有意差の分析を行った.さらにTTIに関しては,Adの併施の有無を基に分類し,またAdに関しては,TTIの併施の有無を基に分類し,群別の推移を検討した.またTに関しては,Adの併施の有無により,あるいは手術の適応疾患を基に分類し,群別に推移を検討した.ただし,本検討ではPFAPA症候群症例は,習慣性扁桃炎症例と同じ群に含めた.

また本研究は,大阪市立総合医療センターの倫理委員会の承認を得て実施された(No. 2405013).

結果

図1は,2019年から2023年までの小児耳鼻咽喉科手術の月別総施行症例数と,大阪府下のCOVID-19の月別新規陽性者数の推移を示している.ただし,2023年5月以降は,COVID-19の月別新規陽性者数は定点観測に変更されて大阪府下の総新規陽性者数は不明となったため,2023年4月までの結果を表記している.2020年から2021年にかけて,大阪府においては,2020年5月16日から5月31日,2021年2月8日から2月28日,2021年4月25日から6月20日,2021年8月2日から9月30日の計4回,緊急事態宣言が発令されていた.これらのタイミングに一致,あるいは,やや遅れて,総施行症例数が減少する傾向が認められた.

図1 月別の小児耳鼻咽喉科手術の総施行症例数,および大阪府下のCOVID-19新規陽性者数の推移

白矢印(⇩)は,緊急事態宣言後の手術の総施行症例数の急減のタイミングを,矢尻(▼)は,2022年以降の総施行症例数の急減のタイミングを示している.

しかしながら,2022年においては,COVID-19新規陽性者数は大幅に増加するようになったにもかかわらず,緊急事態宣言は発令されなくなった.この間,月別新規陽性者数のピークのタイミング(2022年2月,8月,および12月)と,月別総施行症例数の落ち込みのタイミング(2022年2月,6月,および10–11月)は必ずしも一致しなかった.その後,2023年以降は月別総施行症例数の急減は認められなくなった.

図2 Aは,年別の小児耳鼻咽喉科手術の総施行症例数の推移を示している.COVID-19大流行以前の2019年から2022年にかけて,小児の耳鼻咽喉科の総手術症例数は2019年の363例より2020年に統計学的に有意に減少し(p<0.001),2022年の210例(57%)まで漸次的に減少した.その後,2023年には256例(71%)まで統計学的有意に増加したが(p<0.01),2019年のレベルまで及ばなかった.一方,成人を対象とする耳鼻咽喉科頭頸部外科の手術の総施行症例数は,図2 Bに示すように,COVID-19大流行の開始にもかかわらず,2019年から2021年まで有意な変化は認められず,横ばいの状態であり,翌2022年にかけてのみ有意に増加していた(p<0.01).また当施設全体の手術施行症例数は,COVID-19大流行開始前の2019年の11058例より,2020年の9635例(87%)に統計学的に有意に減少したものの(p<0.001),最も減少した2021年でさえ83%までの減少に留まり,2021年以降は有意な変化はなく,ほぼ横ばいの状態であった(図2 C).

図2 年別の小児耳鼻咽喉科,成人耳鼻咽喉科,および施設全体の手術の施行症例数の推移

A:小児耳鼻咽喉科,B:成人耳鼻咽喉科,C:病院全体.***: p<0.001, **: p<0.01, n.s.: not significant.

次に,小児耳鼻咽喉科手術の個別の術式の施行症例数の年別推移について検討を行った結果を図3に示す.年別のAdの施行症例数の推移に関して,2019年の132例より,2020年の79例(60%)に統計学的に有意に減少し(p<0.01),2022年の65例(49%)に微減した後,2023年に127例(95%)と統計学的に有意に増加し(p<0.01),2019年とほぼ同じレベルまで回復した(図3 A).また年別のTの施行症例数は,2019年の100例より2022年の54例(54%)にまで漸次的にほぼ半減し,2023年は93例(93%)まで統計学的に有意に増加し(p<0.05),2019年とほぼ同じレベルまで回復がみられた(図3 B).従って,Adの施行症例数とほぼ同じ傾向が認められた.

図3 年別のアデノイド切除術,口蓋扁桃摘出術,および鼓膜チューブ挿入術の施行症例数の推移

A:アデノイド切除術,B:口蓋扁桃摘出術,C:鼓膜チューブ挿入術.**: p<0.01, *: p<0.05, n.s.: not significant.

一方,TTIの施行症例数は,2019年の160例から,2020年,さらに2021年にかけて統計学的に有意に減少し(ともにp<0.05),2022年には59例(36%)まで減少し,2023年は79例(49%)と若干の増加がみられたものの(有意差なし),2019年と比較して半減の状態であった(図3 C).

また図4は,TR,LTS,TP,およびCIの年別の施行例数の推移を示している.TRの施行症例数は6例から10例まで多少の変動があったもののCOVID-19流行に伴って特別な傾向は特に認められなかった(図4 A).LTSについては,1例から4例までと例数は少なかったが,流行中漸減した後に2023年に回復しており,Ad/Tに似た傾向が認められた(図4 B).TPの施行症例数については,2018年の32例から,2019年には大流行開始にもかかわらず51例(159%)まで増加し,2021年に36例(113%)に一時的に減少したものの,2022年以降漸次的に増加していた(図4 C).一方,CIの施行症例数は,2019年から2021年までは大流行開始の影響を受けず一定であったが,2022年以降大幅な減少が認められた(図4 D).

図4 年別の気管切開術,喉頭気管分離術,鼓室形成手術,および人工内耳植込術の施行症例数の推移

A:気管切開術,B:喉頭気管分離術,C:鼓室形成手術,D:人工内耳植込術.

特に,COVID-19大流行に伴って明確な傾向が認められたAd,T,およびTTIに関して,これらの3つの術式の併施の有無によって推移に差があるのかについて検討を行った.まずAdの施行症例をTTIの併施の有無により分類して検討したところ,TTIの併施の有無にかかわらず,2020年に急減し,2023年に回復するという傾向が認められ,両群間で年次推移に差は乏しかった(図5).次にTの施行症例をAdの併施の有無を基に分類したところ,症例のほとんどがT/Adの併施例であったため,先述のT施行症例総数の推移と同様の傾向が認められた.一方,Tの単独施行の症例数の推移はほぼ横ばいであった(図6).

図5 鼓膜チューブ挿入術併施の有無別のアデノイド切除術施行症例数の推移

鼓膜チューブ挿入術併施例(Ad/TTI併施)と,鼓膜チューブ挿入非併施のアデノイド切除術施行例(TTI非併施)に分類して提示している.

図6 アデノイド切除術の併施別の口蓋扁桃摘出術施行症例数の推移

アデノイド切除術併施例(T/Ad併施)と,アデノイド切除術非併施の口蓋扁桃摘出手術単独施行例(Ad非併施)に分類して提示している.

さらにTの施行に至った適応疾患により分類して集計した結果を図7に示す.いずれの年においても,閉塞型睡眠時無呼吸(以下OSA)/扁桃肥大を適応としていた症例が大部分を占めていたが,その症例数は,2019年から2020年にかけて急減し,2022年までほぼ横ばいとなった後,2023年に著明に増加し,2019年のレベルまで回復していた.一方,習慣性扁桃炎(PFAPA症候群を含む)を適応として施行された症例の数は,2019年から2023年にかけて10/7/3/1/0例と漸減していた.

図7 適応疾患別の口蓋扁桃摘出術の施行症例数の推移

最後に,TTI施行症例をAdの併施の有無により分類して表記した推移を図8に示す.TTI/Ad併施の症例数は2019年の38例から,2022年の19例まで50%減少し,2023年には44例(116%)とCOVID-19流行前の2019年よりも若干の増加がみられた.一方,Adの併施のないTTI単独施行の症例数は,2019年の122例から2022年の40例(33%)にまで漸減し,さらに2023年においても35例(29%)まで大幅に減少していた.またTTI施行に至った適応疾患については,2例のみが反復性急性中耳炎であり,その他全例が滲出性中耳炎であった.

図8 アデノイド併施の有無別の鼓膜チューブ挿入術施行症例数の推移

アデノイド切除術併施例(TTI/Ad併施)と,鼓膜チューブ挿入術単独施行例(TTI単独,Ad非併施)に分類して提示している.

考察

COVID-19大流行開始以降,小児耳鼻咽喉科における手術の施行数が大幅に減少したことが報告されている3,4,8).Jones et al.3)は,COVID-19大流行開始以前の12ヶ月と以降の12ヶ月を比較し,小児耳鼻咽喉科の手術症例数の減少幅を19.86%と報告した.Lloyd et al.4)は,COVID-19大流行後3年間の前半/後半の小児耳鼻咽喉科手術件数の減少幅がそれぞれ87.57%/36.86%であったと報告した.仲野ら8)もまた,小児専門病院において,耳鼻咽喉科の手術件数が2019年から2020年にかけて,269件から147件(54.6%)に減少したと記述している.また小児耳鼻咽喉科手術のみでなく,小児専門病院全体において,COVID-19大流行後に慢性的な基礎疾患の有無にかかわらず,小児患者の入院が減少し,特に2019年から2020年にかけて感染性病因,および非感染性病因による入院が,それぞれ74%,および44%減少していたことが報告されている10)

本検討においては,COVID-19大流行前後の時期を含む5年間における小児耳鼻咽喉科手術の月別の総施行症例数と大阪府下のCOVID-19新規陽性者の推移の関連性について調査した結果,COVID-19新規陽性者数の増加に伴う計4回の緊急事態宣言の発令に一致,あるいはやや遅れて,総施行症例数の減少が認められていた.流行が拡大した際に手術施行数が減少した理由として,政府が発令した緊急事態宣言に従って,患者,およびその家族が外出を自粛したことに加えて,特に上気道感染の受診者が多い耳鼻咽喉科,および小児科の医療機関においては,他の患者経由でCOVID-19に感染することを恐れて受診を控えたことがある.これらの理由で,診療所の新規受診患者が減少し,その後に二次的に病院の小児耳鼻咽喉科への紹介患者が減少し,その結果,小児耳鼻咽喉科の予定手術の施行数がいくらかのタイムラグを伴って減少したものと推察される.

またCOVID-19大流行後の手術施行症例数の減少を生じさせた他の要因として,特にCOVID-19大流行開始直後の初回の緊急事態宣言の時期においては,世界中の多くの病院において待機可能な手術は延期させるという手術制限の方針が行われていたことがある.しかしながら,当施設では,麻酔科,および手術部ともに,特別な手術制限を行っていなかった.実際,図1において,初回の緊急事態宣言に相当する2020年4月および5月の手術の総施行数の落ち込みは少なく,6月になってから大きな減少が認められていた.

当施設は公立病院であり,COVID-19大流行開始直後より母体である大阪市の要請を受けて,COVID-19患者の受け入れを積極的に行ってきた.施設内の3つのICU中2つがCOVID-19患者専用になり,他に中等症COVID-19患者受け入れの専用病棟の開設も行われ,各科医師が交代で勤務に当たった.その一方で,職員一同の努力によりCOVID-19診療と通常診療の両立が図られ,クラスターによる病棟閉鎖やICU入室制限などのない限り,手術制限は行われなかった.特に当施設は小児医療センターを有しており,小児診療の制限は社会的な影響が大きいという考えの基に,小児用ICU(PICU)は大流行開始前の状態のままで運営され,その結果,小児患者の手術もまた一切制限されなかった.以上のことから,当科の手術施行例数の減少の理由は,手術制限のためではなく,上記のように患者の診療所への受診抑制による二次的な紹介初診患者数の減少,および患者側からの予定手術のキャンセルの申し出の増加によるところが大きいと考えられる.今後の課題として,COVID-19大流行に関するイベントと月別手術施行症例数の推移との間の関連性について,詳細な分析を行う必要がある.

一方で,2回目以降の緊急事態宣言発令がされた2021年以降には,医療従事者の安全を確保するための個人防護具やアルコール消毒液の使用,エアロゾルの発生を防止する手技の回避,COVID-19感染の入院前のスクリーニングなどの様々な対応法が広く普及して,本邦の多くの急性期病院において手術制限は解除され,また患者の診療所への受診抑制も幾分緩和されていたものと推測される.従って,2021年から2022年にかけても小児耳鼻咽喉科の施行症例数が減少し続けていたことについては,病院の手術制限,および患者の受診抑制,手術回避のみで説明することは困難であり,COVID-19大流行以降,手術適応疾患の罹患者数自体が変化していたという可能性が提起される.この点に関しては後述する.

また2022年には,感染の「波」のCOVID-19新規陽性者数の絶対数が桁違いに増加するようになったものの,新規陽性者数が急激に増加したタイミングと,総手術症例数が減少するタイミングは必ずしも一致していなかった.この時期において,総手術症例数に影響を与えた要因として,手術直前に患者自身,あるいはその家族が発熱したために手術がキャンセルとなることが多発するようになったことが挙げられる.しかしながら,当時,手術のキャンセル数もまたCOVID-19新規陽性者数と必ずしも相関しておらず,本検討のデータのみからは,その理由を推定することは困難である.また2022年の5–6月の総施行症例数の減少については,2022年4月に当科に所属する医師に大幅な人事異動があり,他施設に異動する医師が手術の予定を入れていなかったという当科特有の要因が影響していたものと考えられる.

次に,2023年において,小児耳鼻咽喉科手術の年別の総施行症例数がようやく増加に転じていた.その理由として,2023年5月のCOVID-19の5類感染症への移行が契機となった可能性が高いと考えられた.しかしながら,本検討では,手術施行日のみを調査しており,症例の紹介依頼日,紹介受診日,および手術決定日を調査していなかったため,5類感染症への移行と,患者の紹介依頼,紹介受診,および手術決定のタイミングの間の詳細な関連性については不明である.また5類感染症への移行と同時にCOVID-19の新規陽性者数の調査方法が定点把握に変更されて,大阪府全体の新規陽性者数を把握できなくなったという問題もある.

一方で,成人患者を対象とする耳鼻咽喉科頭頸部外科の手術施行例数は,COVID-19大流行の開始にもかかわらず2020年に減少が認められず,むしろ2022年には有意な増加が認められた.その理由として,当施設では,小児耳鼻咽喉科と耳鼻咽喉科頭頸部外科では同じ医師が兼務しており,小児耳鼻咽喉科の手術の空き枠を耳鼻咽喉科頭頸部外科の手術に使用していたためと考えられた.一方で,当施設全体の手術施行例数は,COVID-19大流行開始の2020年に有意に減少し,以降横ばいとなっていた.その原因として,中等症のCOVID-19専用病棟が設置されたために,通常の手術患者のための病床数が減少したことで,特に術後に長期の入院を要する手術の施行数が大きく影響を受けた可能性が考えられた.

次に,小児耳鼻咽喉科手術について術式別に年別の施行症例数の変化を検討したところ,Ad,T,およびTTIに関しては,2019年の急減の後に2022年まで漸次的減少が認められた点は,総施行症例数の推移と同様であった.しかしながら,2023年においては,Ad,およびTは,COVID-19大流行開始前の2019年のレベルまで回復した一方,TTIは若干の増加が認められたのみであり,大きな差違が認められた.2023年の回復の程度に術式間差違をもたらした要因に関しては,以下で議論する.

Ad,およびTの年別施行症例数の推移について,Lloyd et al.4)は,COVID-19大流行を含む2019年から2021年の3年間において,Ad/Tの併施の施行件数が2020年に2019年と比較して96.4%減少し,2021年でさえ42.4%に留まっていたと報告している.Windfuhrら5)は,ドイツ全国で施行されたT,Ad/Tの併施,口蓋扁桃切除術,扁桃周囲膿瘍排膿術・即時Tなどの口蓋扁桃関連手術の施行件数がいずれも,ロックダウンによる大幅な受診抑制後の1年以上に渡って減少し続けていることを報告した.またAllen et al.6)は,全米の51の小児専門病院のデータベースを解析し,小児のAd/T併施の手術件数が,2019年から2020年にかけて減少し,2021年も同レベルにあることを報告した.しかしながら,2022年以降の手術数の推移についての報告は,著者らが渉猟した範囲では見つけることができなかった.本検討においては,Tの施行症例数は,2019年から2022年にかけて漸次的減少し,COVID-19の5類感染症移行後を含む2023年に,2019年のレベルまでのV字回復が認められたことが明らかとなった.

また本検討において,OSA/扁桃肥大を適応疾患としてTを施行された症例の数は2023年にV字回復していた一方で,習慣性扁桃炎・PFAPA症候群を適応としてTを施行された症例の数は2019年から2023年にかけて10例から0例まで漸次的に減少していた.Patel et al.11)は,COVID-19大流行中に,小児耳鼻咽喉科専門医師が属する全世界15施設の医療機関の75%以上において,滲出性中耳炎,急性中耳炎,急性乳突洞炎,習慣性扁桃炎,扁桃周囲膿瘍などを含む上気道感染症の患者の紹介受診者数が減少したことを報告している.またAllen et al.6)は,扁桃炎のような扁桃関連の症状による外来受診者数が,COVID-19大流行の開始直後の2020年4月に急減した後に5月に急回復し,6月に大流行前よりも高いレベルまでリバウンドし,その後に元のレベルまで戻り,2021年に入ってからは12月まで減少し続けたことを報告している.一方,Abi Zeid Daou et al.12)は,COVID-19大流行の開始以前の13ヶ月(大流行前),開始直後からの15ヶ月(大流行後前期),およびその後の9ヶ月(大流行後後期)の3つの期間における上気道,および耳鼻咽喉科領域の感染症の患者を比較し,急性中耳炎と扁桃炎の罹患率が,大流行後後期,大流行前,大流行後前期の順で高かったことを報告している.このようにCOVID-19大流行直後より,ソーシャルディスタンスの維持,マスクの使用,頻回の手洗い,および,アルコールによる手指消毒の励行などの感染予防対策が普及し,その結果,習慣性扁桃炎の罹患者数が減少したものと推察される.

一方,OSA/扁桃肥大を適応としてTを施行された症例が2020–2022年に漸減した後に,5類感染症への移行を含む2023年にV字回復した理由については,受診抑制の解除により耳鼻咽喉科診療所への受診者数が増加して二次的に病院への紹介初診数が増加したためと考えられる.また別の仮説として,COVID-19の大流行に伴って,COVID-19に罹患し,免疫学的な影響の結果,OSA/扁桃肥大の罹患者数が増加している可能性がある.しかしながら,前述のように,本検討では手術施行日に基づく月別手術施行症例数の集計のみを行っており,紹介依頼日,紹介初診日,および手術施行日の間にタイムラグがあるため,手術施行患者数のみを基として罹患者数を詳細に把握することは困難であった.今後の検討課題としたい.

TTIの年別施行症例数の推移について,Lloyd et al.4)は,COVID-19大流行を含む2019年から2021年の3年間において,TTIの施行件数が2020年に2019年と比較して94.6%減少し,2021年でも70.1%まで減少したままであったことを報告している.Diercks and Cohen7)もまた,TTIの件数が2019年の831件から2020年には303件に減少したことを報告している.仲野ら8)は,小児の滲出性中耳炎に対するTTIの施行件数が,COVID-19大流行開始直後の手術制限により急減し,その後増加したものの,2021年第一四半期に至っても流行前と比較して減少したままであることを報告している.しかしながら,2022年以降のTTI手術の施行数の推移に関する報告は著者が渉猟した限り見当たらなかった.

本検討において,TTIの年別施行症例数は2019年より2022年まで漸次的,かつ大幅に減少し,2023年に若干の増加がみられたものの,2019年のレベルの半分に満たないままであったことが明らかとなった.またAd/TTI併施の症例数は2019年から2022年まで漸減した後に,2023年は2019年のレベルまでのV字回復を示した一方で,TTI単独施行の症例数は2019年から2023年までの間ずっと漸減し続けていたことも明らかとなった.

TTIの適応疾患の主たるものは滲出性中耳炎であり,実際,本検討において,TTI施行症例中,2例を除く他の全例が,滲出性中耳炎を適応疾患としてTTIを施行されていた.一般に,滲出性中耳炎の病態として,耳管機能障害の関与が大きいと考えられてきた.特に小児患者の耳管機能障害の原因として,アデノイド増殖,鼻副鼻腔炎に伴う鼻漏,耳管咽頭孔付近の粘膜の浮腫性腫脹,口蓋裂に伴う耳管開放筋の機能不全などがある.今回,TTI/Ad併施症例においてはアデノイドの増殖が認められていた一方で,TTI単独施行症例はアデノイド増殖を伴っておらず,鼻副鼻腔炎に伴う鼻漏などが耳管機能障害の主因であった可能性が高い.従って,本検討においてTTI単独施行の症例数がCOVID-19大流行開始後4年間にわたって漸減し続けたことの原因として,TTI単独施行症例においては,滲出性中耳炎の発症がアデノイド増殖以外の要因,すなわち鼻漏や耳管咽頭孔部の粘膜炎に起因しており,前述の習慣性扁桃炎の罹患者数の減少と同様に,COVID-19大流行に伴う徹底した感染予防対策によって鼻副鼻腔の感染性疾患が減少し,二次的に滲出性中耳炎の罹患者数が減少したためと推察される.

また小児滲出性中耳炎のもう1つの原因として,近年,中耳の感染が注目されている13).実際,抗生剤投与を受けていない急性中耳炎患者の約半数において,急性炎症が消退した4–6週間後に,無症状の状態で中耳滲出液の貯留が遷延することが報告されている14).また小児滲出性中耳炎の中耳滲出液より,常に検出されるわけではないものの,急性中耳炎と同様に,ライノウイルスやRSウイルスなどのウイルス15)H. influenzaeS. pneumoniaeS. aureusM. catarrhalisなどの細菌16)が検出されたことが報告されている.

前述のCOVID-19に対する徹底した感染予防対策は,習慣性扁桃炎,鼻副鼻腔炎のみでなく,感染性中耳炎の罹患者数も減少させた可能性が高い.前述のPatel et al.11)は,COVID-19大流行中に,小児耳鼻咽喉科専門医師が属する全世界15施設の医療機関の75%以上において,滲出性中耳炎,急性中耳炎の患者の紹介受診者数が減少したことを報告した.またTorretta et al.17)は,反復性中耳炎の既往のあった小児患者102例の82%において,COVID-19大流行開始後のロックダウン期間中に中耳炎の改善が認められ,自然鼓膜穿孔のエピソード,耳漏のエピソード,抗菌薬の投与が有意に減少したことを報告した.Hullegie et al.18)は,オランダの総合医のネットワークの登録データを対象とした調査において,COVID-19大流行中に急性中耳炎,滲出性中耳炎,および耳漏のエピソードが大幅に減少したことを報告した.Aldè et al.19)は,2019年5–6月,2020年1–2月,およびロックダウン直後の2020年5–6月の外来を受診した小児の慢性滲出性中耳炎患者を比較し,慢性滲出性中耳炎患者の割合がロックダウン直後に52.2%から2.3%に激減したことを報告した.Yu et al.20)は,COVID-19大流行開始を含む2020年に,外来の急性中耳炎患者が63.6%減少し,大流行前の2015–2019年に認められた急性中耳炎罹患者数の季節変動が認められなくなったことを報告した.特に仲野ら8)は,2019年から2020年にかけて口蓋裂を合併する症例のTTI施行件数はほぼ変化がなかったのに対して,口蓋裂を合併しない症例のTTI施行件数が43.8%に減少したことを報告している.これらの報告より,COVID-19に対する徹底した感染予防対策により急性中耳炎の罹患者数が減少し,中耳感染を基盤として発症した滲出性中耳炎が二次的に減少し,Ad非併施のTTIの施行症例数の減少に繋がったものと推測される.

さらに本検討においては,Ad,およびTの施行症例数は2023年にV字回復が認められた一方で,TTIの施行症例数については2023年においても回復が乏しく,特にTTI単独施行症例数が現在も減少し続けている点は興味深い.現在,本邦においてCOVID-19が5類感染症へ移行された後,アルコールによる手指消毒を行う機会は減少したものの,本邦の成人の多くは相変わらずマスクを着用し続けており,また成人・小児ともに帰宅後の手洗いなどの感染予防対策の一部が習慣化したために,耳鼻咽喉領域の感染症が現在も減少したままにあることが影響しているものと推察される.

最後に,他の術式の年別施行症例数の推移に関して,TR,およびTPの施行症例数は5年間を通じてほぼ横ばいであった.一般に,TRの適応は,上気道狭窄,長期気管挿管,および下気道の分泌物貯留であるが,特に小児症例では,奇形や頭頸部腫瘤による上気道狭窄,および,神経筋疾患や蘇生後脳症に伴う長期気管挿管が中心となる21).これらの疾患の罹患率がCOVID-19大流行による影響を受けなかったためにTRの施行症例数の変化は乏しかったものと考えられる.

一方,TPの施行症例数が横ばいであるのみでなく,大流行開始の2020年で最多であった理由として,当科ではCOVID-19大流行以前よりTPの施行目的の紹介受診患者が多かったため,COVID-19大流行開始の直後より早期に,乳突洞削開術中のエアロゾル,および飛散物から術者を防護するOtoTent22)を導入し,手術制限の解除直後よりTPの施行を可能にしたことがある.また2020年には,上記のAd,T,およびTTIが減少して空いた手術枠でTPを施行していたために,2020年の症例数が増加したものと考えられる.さらにTPの適応疾患である真珠腫性中耳炎,および慢性中耳炎に伴う鼓膜穿孔の罹患者数がCOVID-19大流行の影響を受けなかったことも理由の1つと考えられる.

一方,LTSの施行症例数は少ないものの2020–2022年に漸減した後に2023年に増加を示しており,Ad,およびTの推移と同様であった.LTSの適応は誤嚥性肺炎の反復であるが,誤嚥性肺炎の罹患とOSA/扁桃肥大との共通性は乏しい.むしろ,大流行に伴い,LTS施行の対象となる重症心身障害児の外出が制限されたことで,誤嚥性肺炎の悪化要因としての下気道感染が減少し,二次的に誤嚥性肺炎の罹患頻度が低下した可能性がある.

最後にCIに関しては,COVID-19大流行の開始より遅れて2022年に急減し,2023年に回復を認めておらず,前述の術式とは異なる推移を示していたが,原因の同定は困難であった.

結語

1.COVID-19大流行を含む2019–2023年の5年間において,Ad/T/TTIの施行症例数が2019年から2022年まで漸次的に減少した.2023年に,Ad/Tは2019年レベルまでV字回復を示したが,TTIはわずかな増加のみに留まった.

2.症例数は少ないものの,TR/TPの施行症例数は全期間を通じて横ばいであったが,LTSの施行症例数の推移はAd/Tの推移とほぼ同様であった.

3.術式間で,COVID-19大流行開始以降の症例数減少の有無,および5類感染症移行以後の回復の有無が異なった理由として,患者の受診抑制のみでなく,適応疾患の罹患者数の変化が影響していたものと考えられる.

利益相反に該当する事項:なし

文献
 
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