小児耳鼻咽喉科
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シンポジウム2『小児難聴―いつ,誰に,何を,どう伝えるか―』
小児難聴―いつ,誰に,何を,どう伝えるか― 新生児の保護者へ
中澤 操
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2024 年 45 巻 2 号 p. 55-60

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Abstract

新生児聴覚スクリーニング(以下新スク)事業の大きな特徴は,保護者が予期していないことを突然告げられて耳鼻咽喉科に紹介されることである.この点が,何か心配してから受診する通常診療とは全く異なる.2001年に公的新スクが開始された秋田県では,不安を抱える保護者に対して誰からも同じ答え(子どものきこえはだいじ,など)が返ってくることが理想と考え,聴覚が音声言語獲得に果たす役割について多職種が共通認識をもつことを中心に仕組みを作りかつ継続してきた.また,検査結果を告げられたあと緊張して耳鼻咽喉科(精密医療機関)に来院する保護者に対応する担当医の初回面接の役割は非常に大きい.本稿では秋田県の仕組みの概要と,筆者の保護者対応(初回面接と結果説明)について,それぞれ重要なポイントを述べたいと思う.

はじめに

秋田県の新生児聴覚スクリーニング(以下,新スク)は行政主導で2001年に開始され,その準備段階で実に多くの準備を要した.なぜなら,通常の病院受診では何かを心配して当事者が受診するのに対して,新スクはそれとは全く異なり,保護者が想像もしていないことを突然に伝えられ早めに受診しなければならないからである.このことを新スクに関わるすべての職種が同じように理解する必要があった.まず,担当行政・県医師会長・日本耳鼻咽喉科学会秋田県地方部会長と実働医師が顔を合わせて,この事業の骨子と目的について共通認識を確認することが行われた.これにより,以後具体的に膨大な準備に取り組むための背景が整えられた.次に,関連部署に一斉に周知する目的の会議も行われた.医師(産科,小児科,耳鼻科)はもちろん,言語聴覚士,臨床検査技師,保健師,教師,などが参集し県庁の広い会議室で今後の方向性を確認しあったのだが,そのときのある保健師の一言が今も忘れられない.それは「予期しないことを告げられる新スクの特徴を考えると,どこに行っても誰に尋ねても同じ説明があれば親御さんは安心すると思います」という発言であった.このあと,現在まで継続している秋田県新生児聴覚検査対策委員会(以下,県対策委員会)が発足し,県内のどこで新スクを受けても難聴の有無が確実に診断され,確実に療育され,その後の教育が保障されるような制度づくりが展望されるに至った.換言すれば新スクとともに様々な体制が加速度的に整備されていったといえる.本稿ではこれらの仕組みについて概略を示しつつ,耳鼻咽喉科精密医療機関での初回面接と聴性脳幹反応(以下,ABR)結果説明を中心に筆者が実際に行っていることについて紹介したい.

新スク受検前の仕組みづくり―啓発―

難聴の早期発見がなぜ重要なのか,新スクとはなにか,普段何を観察すべきか,などに関して,母子手帳を受け取るときから保護者が何度も繰り返して学べるように2001年に啓発資料を準備した.母子手帳に挟まれる聴覚言語発達チェックリスト(田中・進藤),妊娠後期に産科で渡すリーフレット1),出産後の検査案内リーフレット,新スクをパスした場合のリーフレット,精密検査案内のリーフレットである.各リーフレットは数十年たっても使えるような文言とし,現在までほぼ同じものが使われている.2001年は世界保健機構WHOが障害者分類の新しいバージョンとして国際生活機能分類ICFを発表した年であり,その中で音声言語と手話言語が同等に扱われていることを受けて,妊娠後期のリーフレット1)には「きこえるから音声言語が育つ」「みえるから手話言語が育つ」と併記した.行政主導の新スクの場合,きこえの程度と関係なく全ての県民に隔たりなく恩恵が行き渡るような配慮を意識的に行うことは非常に重要と考えたからである.

新スク受検時・受検後の仕組みづくり―マニュアルの運用確認・医師連携―

実際の運用にあたっては様々な局面でのマニュアルが作られ,定期的に会議が開かれている(前述の県対策委員会).精密医療機関(耳鼻咽喉科)と検査医療機関(産科や小児科)間の医師連携が紹介状と返事のやりとりで保たれているのは通常診療と変わらない.筆者が現在まで心掛けてきたことは,作られたリーフレットなどが確実に渡されていたか診察のたびに保護者に確認すること,紹介元の産科医あるいは小児科医には詳しい返事を送り難聴の早期発見の重要性について再認識していただくこと,のふたつである.2016年には日本耳鼻咽喉科学会福祉医療・乳幼児委員会から体系的にまとめられた新スクマニュアルが発行され2),これを行政経由で県内関係機関に配布してもらった.印刷物は多くの人に実際に読んでもらってこそ価値があるので,発行後いかに現場に周知していくかが重要である.

精密医療機関受診まで

新スクで要精査(以下,リファー)だった場合,当初秋田県では再検査のみならず可能な限り複数回の検査を行って未熟性による影響を可及的に排除したうえで精密医療機関に紹介する,という方法をとっていた.最終的に1ヶ月健診時に(そのときさらに自動ABR検査を行う場合もあった)リファーについて保護者に伝える方法を推奨していた.2001年当時はリファーの意味することが不明で,未確定のことに関して保護者に不要な不安を与えないことが優先された背景があったためである.県全体で新スクのシステムが軌道に乗るにつれ,小児難聴に対する県民の理解が少しずつ高まってきたと感じることが増えた(詳細は割愛).先天性サイトメガロウイルス(以下,cCMV)感染症への対応は懸案であったが,2023年10月のこども家庭庁成育局母子保健課長通達および小児科AMED研究班の診療ガイドライン3)発行を受けて,定例の県対策委員会が2024年1月に開催され,2024年2月には秋田県健康福祉部保健・疾病対策課から県内関係機関への通知が行われたことにより,現在は新生児聴覚検査の確認検査でリファーの場合,1)生後21日以内にサイトメガロウイルス(以下CMV)尿検査を行う,2)尿CMV陽性であれば,小児科紹介につなげる,3)尿CMVの結果に関わらず耳鼻咽喉科精密検査機関(秋田大学・中通総合病院)を紹介し聴力精査を行う,という流れになっている.並行して対策委員会内で共通理解を維持できるよう重要情報(たとえば県内の症候性cCMV感染症に関する論文4)など)はその都度委員会内でメールなどで共有している.なお,精密医療機関への紹介は各検査医療機関が連携室などを通して責任をもって行う方法をとっている.この方法は新スク開始前に既に難聴児を育てている保護者5–6名から「親が探すのではなく産科あるいは小児科から,耳鼻科(精密医療機関)に直接紹介する体制を作ってほしい」という共通の要望があったことを受けたものである.以上が,精密医療機関受診までの流れで,次項から初回面接の実際について解説する.

初回面接の実際

筆者が診察している中通総合病院(秋田市)で実際に使っている部屋を図1に示す.初診時には保護者2名で来院するように伝えてあり(秋田県方針),この部屋で子どもと保護者2名,耳鼻科医と言語聴覚士が対面する.なお,保護者2名は必ずしも両親である必要はない.実際には両親,母と祖母,母とその友人,の順に多い.通常の診察室ではなく,このような明るい面接室を用意している理由は冒頭に述べたように一般の疾病受診経緯と新スク後の受診とは質的に異なるからである.筆者は白衣は着用せず,なるべく明るい色彩の服装で臨むようにしている.

図1 中通総合病院耳鼻咽喉科外来の面接室

話し方の実際について筆者が心がけていることを表1に示す.

表1 初回面接時の医師説明の際の話し方

・保護者の不安を推し量りつつ,声の調子はやや明るめ
・説明は優しく,速度はゆっくりめ,淡々と
・相手の理解度を知るために目線を合わせながら

初回面接で本題に入る前の前置きを表2に示す.

表2 初回面接時,本題に入る前に行うこと

・あいさつ,自己紹介,保護者の名前を確認し以後名前で呼ぶようする

・渡されているはずのものを確認する.
  母子手帳添付の聴覚言語発達リスト
  妊娠後期1)配布のリーフレット
  出産後の検査案内リーフレット
  精密検査案内の各リーフレット

あいさつや自己紹介は当然として,保護者に話しかけるときには「お父さん,お母さん」ではなく,個人名で呼ぶことを心がけている.そして,各種リーフレットなどの配布物の確認については「最初は事務的なことで恐縮ですが」と断ってから行う.漏れがある場合は,行政や紹介元に連絡し,次からは漏れないようにお願いする.この作業は,数十年にわたって同じ仕組みを維持するために極めて重要である.新スク後に精密医療機関受診を勧められ,実際に来院するまでの保護者の苦悩はとてつもなく大きい.本稿冒頭に述べた様々な準備があっても,それにより保護者の苦悩が軽減されるわけではない.つまり精密医療機関初診時の医療者の対応が,保護者にとって非常に重要な印象を与えることになる.表2のような本題に入る前のやりとりは礼節上重要であるのみならず,保護者の緊張を若干でも和らげる効果があるかもしれないと考えてこのようにしている.もちろん,担当医師のみならず,その病院の受付から耳鼻科外来のスタッフまで暖かく接することが基本になるが,その基盤になるのが「誰に聞いても同じ答えが返ってくる(言語発達を促すためのきこえの役割,専門医療機関での正確な診断の重要性など)こと」であり,冒頭に述べたような事前準備が大切と考える所以である.

初回面接で保護者に説明する内容を表3に示す.

表3 初回面接で説明する内容4項目

1.なぜ,生まれてすぐ聴覚を調べるのか?
2.自動ABRでどういう検査をしたのか?
3.どういう場合にここ(耳鼻科)に来るのか?
4.これから何をするのか?

きょうは説明だけです,と前置きし,その理由を簡潔に述べる.すなわち,原則として診断のためのABR検査は修正月齢3–4ヶ月に行うこと,その理由もこれから説明する旨を伝える.ただしcCMV感染症の精査が必要な場合は小児科医と相談して生後2ヶ月以内のABR検査日程を考えることになるが割愛する.すなわち本稿では,新スクでリファー,生後21日以内の尿検査でCMV陰性であったケースへの対応について述べる.これから4つお伝えしますと言って,本題にはいる.片手の手指で「4」を作り表3に示した順番で,まずこの4つのタイトルを伝える.視覚的に「4」を示すことで,保護者としては「きょうは4つなんだ」「たくさんあると思っていたが,まずはこの4つだ」と心の準備がし易くなると推測されるからである.そして,ひとつずつ説明していく.

表3の1については,音声言語獲得の基礎が築かれる0歳代から3歳くらいまでの間に,脳内学習を進めるために聴覚入力を補償すべきお子さんを早期にみつけるためで,難聴は傍目には判らないから全員をスクリーニングする体制が考え出されたことを話す.そして音声言語の発達過程を簡単に説明し,3歳過ぎには親と口喧嘩もできるようになること,しかし我々(診察室にいる大人4人)がこれから某国(ペルシャとかアラビアとか)で3年暮らした後,現地の人とペルシャ語やアラビア語で喧嘩できるように「自然に」はならないこと,などの例をあげて,言語発達の適期について理解していただく.子どもの脳がことばを待っているのに,もし難聴のためにことばが脳に到達しないとそれを習得することができずあまりにも勿体無い,もし補聴器でことば(音声言語)が脳に伝わると可能性が広がる,と説明する.保護者に具体的にイメージしてもらうために30年以上前の残念だった出来事も紹介している.例えば「目でみて判断する賢い子だったため3歳過ぎでやっと高度難聴がみつかった例」「お話できるから大丈夫と思っていたが中等度難聴が放置されて就学前に3歳レベルの言語力だった例」などである.これにより「難聴が可哀想」ではなく,「難聴が放置されて言語が遅れることが可哀想」であること,「音声言語獲得の脳回路を作るために難聴を早期発見し補聴器で脳にことばを到達させ言語回路を作る」ことが目的であることが伝わり易くなる.

表3の2については,聴力検査の紙(データが記入されていないもの)を示して,横軸の周波数や縦軸の聴力レベルについて概説してから,新スクで使用した自動ABRの音について「電子レンジのチーンに近いイメージの音を囁き声程度の大きさ」できかせたこと,検査日に片方でも反応がなかったときにここに紹介されることを説明する.筆者は実際に35 dB程度の音圧で「このくらいの検査音です」と文字通りのささやき声で発話し保護者(きこえる場合)にイメージしてもらうようにしている(非常に小さな音であることに皆驚く).そして,対象児の実際の結果についてここで示しその意味を確認する.

表3の3については,リファー頻度について説明する.「リファー1000人のうち補聴器が必要な両側難聴のお子さんは1人,ここには4人来ます」とはっきり伝え,残り3人の内訳を話す.つまり片側難聴・両側正常・新スク時に明らかな未熟性がある場合(低体重など),となる.新スク受検時は誰にでも一定程度の未熟性があることから,今後ABR結果を待ってほぼ診断がつくであろうことを説明する.片方リファーの場合は片側難聴である場合が多いこと,片方きこえていれば音声言語獲得自体は十分可能であることを伝えるが,実際の左右別々の聴力はABR結果を待って判断することや,新スクの結果と今後行うABR結果が一致するとは限らないこと5)も伝える.つまり初診面接時点では確定的なことは言えないことを理解していただく.

表3の4の今後の予定について.精査ABRは原則として修正月齢3–4ヶ月の間に行う(cCMV感染症疑を除く).ABRで何がわかるか,実際の検査法の説明,とくに「眠剤を少しでも服用すれば絶対に寝るような状態」で連れてきてほしいことを強調する.これは診察後に看護師からも説明する.「前の日は夜更かし,当日は早起き,来院途中の車中で絶対寝ない」など,具体的に細かく助言する.なお,検査当日に体調が悪い場合(発熱,下痢,湿性咳嗽など)の場合は,朝のうちに電話連絡するよう伝える.たいていの場合は検査延期とし,新しい検査日を決めておくことになる.

聴覚言語発達リストについて

母子手帳交付時に聴覚言語発達リスト(田中・進藤)が渡されているので(秋田県の場合),上記説明の3と4の間で,このリストを広げて一緒に丸をつけていく.聴力正常/軽中等度難聴/一側性難聴では1–2ヶ月のころに番号11程度まで○がつくことが多く,保護者に「音への反応の発達は順調ですね」と伝える.○がつかない場合,きこえる保護者は家庭内で気づいていて心配していることが多い.「ご心配ですね」と共感をことばで伝える.保護者がお子さんに難聴がありそうだと推測しているときは,さらに少し説明を加える.実はろうの親御さんをみていて感心することなのですが,と前置きして;① 寝ている子どもに声かけして抱っこすると,子どもは親の声かけが聞こえないかもしれないから突然体が空中に浮いて驚きます.② 逆に抱っこしていて携帯に連絡が入り,子どもをソファの上に置き母が去ると,子どもは着信音が聞こえないかもしれないから突然親が視界から消えて不安になります.①②いずれの場合も,必ず目線を合わせ「だっこ」「まってね」と口元をみせたり手話で伝えると子どもは安心するでしょう,ろうの親御さんは自然にそうしていてなるほどと思います,と伝えている.きこえないかもしれない子どもになったつもりで,どうされれば安心かを想像してみよう,ということである.具体的にどうするべきかが分かれば,不安な気持ちを有益な行動に置き換えることができて,親子間のやりとりも成立していき安心につながると思われる.以上の説明に要する時間は15–20分である.

最後に要点を繰り返し医師が質問を受けてから,医師は退室し言語聴覚士と保護者だけの時間を確保する.医師には聞きにくい内容もあると思われるからである.

初回ABR結果の説明

原則,ABRは修正月齢3–4ヶ月で行う.結果は「難聴」「経過観察」「正常」に分かれる.「経過観察」とは,ABR閾値が40 dB程度で鼓膜は正常のとき,このABR結果が脳幹未熟性の影響を反映したものでいずれ正常化するのか,あるいは40 dBの感音難聴なのか,判断に苦しむ場合である.もちろん一定期間をおいて再検査を予定する.再検査は1歳前頃が適切かと思われる.理由はインサートイヤホン視覚強化聴力検査(以下,VRA)が行いやすく,かつ再ABRの際に脳幹の未熟性の影響を排除できる月齢だからである.もちろんダウン症などの発達緩慢な特徴を持つ場合を除く6).紙面の都合もあるので本稿では「両側高度以上の難聴が疑われるとき」に限定して説明する.

なお,説明の前提として自院のABR検査結果が信頼できるものであるように普段から検査者と担当医が自由に情報交換できるような人間関係を構築しておくことが非常に重要である.ABRの測定方法は日耳鼻記載7)に沿って行う.医師の役割はこの測定方法に沿って検査が行われたかを確認し,検査結果については保護者に説明する前に検査者と相互に結果について確認しておくことである(筆者はそうしている).

ABRが左右とも95 dB無反応の場合の説明

いきなり結果を説明するのではなく,検査終了後の子どもの状態を観察し何かコメントする.例えば「もう起きたけど検査中はよく寝て無事終わりました」「検査中一度覚醒したようですが,また上手に寝かせてくれて助かりました」など(ABRの結果に関わらず,緊張している保護者の気持ちを少しでも和らげるために必要なプロセスなので毎回こうしている).そして結果を明確に簡潔に話す;「今日のABR結果から,◯◯ちゃんは大きな音がきこえず,ことばもきこえない程度の難聴,つまり難聴の程度は重いようだ,とわかりました」など.保護者は驚くけれども「詳しく説明してみますから,よく聞いてくださいね,わからないところは遠慮なく質問なさってください」と伝えつつABR波形についての説明を行う.正常例のABRを手元に用意しておき,内耳から脳幹への聴覚伝導の様子,横軸20 msec,正常では80 dBで5つの波がみえることを示す.そして「◯◯ちゃんは・・・」と得られた波形を示す.「高周波数領域で最初80 dB刺激で平らな波形だったので95 dBまで音圧を上げていますがABR波形は平らになっています」と説明する.すると先に示した正常児と比べることで「波が消えるところが聴力だから,うちの子は95 dBくらいだな」というように理解されやすい.95 dBというのはとても大きな音であることも忘れずに伝える.そして必ず家庭内での聴性行動を尋ねる.「ご家庭で,音への反応はいかがですか?」と尋ねる.「ほとんどないように思っておりました」という答えであれば,おそらく水平型聴力に近いであろうと推測される.「ご心配ですね,よく観察されましたね,きょうの結果と一致するような印象なのですね」と声かけする.共感すること・観察を褒めること,の両方が重要である.一方,「ドアが閉まる音で目が覚めたりしていますが…」という答えの場合がある.まずは「よく観察していますね」と褒め,そして「他に反応する音はありますか?」と尋ねるなど問診しつつ,高音障碍型も考えられることを伝える.次回(だいたい6ヶ月ごろ)の条件詮索反応聴力検査(以下,COR)や聴性定常反応ASSRなどの説明をする.

最後に要点を繰り返し,言語聴覚士と保護者だけの時間を確保し言語聴覚士は受けた質問に丁寧に答えるが,通常20–30分程度,相談に応じることが多い.最後に言語聴覚士は名刺を渡しいつでも電話していいことをお伝えする(実際に電話がかかってくることはほとんど無いとのことである).また,保護者の同意が得られたら,この日のうちに身体障害者手帳聴覚3級(現時点での判定として)の医師意見書を記載して渡すようにしている.

保護者が難聴あるいはろうの場合

補聴器を使っている人もいれば,手話が母語で手話通訳を介する場合もある.聴覚障碍に対する考え方は,保護者自身やその上の世代の生育歴・教育歴に大きく左右される8)ので,事実を淡々と,かつソフトに説明する.小児難聴に携わる場合,医師や言語聴覚士が折に触れて聴覚障碍者が歩んだ歴史について知識を深めておくことも実は非常に重要である9,10)

伝え方のポイント

以上の内容を実際に保護者に伝える際の雰囲気や心構えについて表4に示す.全体を通して「共感empathyと中立性neutrality」という,ともすれば難しく感じられるふたつの姿勢を共存させて応対するように心がけている.

表4 保護者に検査結果を説明する際の雰囲気や心構え

・医師の態度が保護者に少しでも安心感を与えるように
・話し方は,ニュートラル,柔らかく,淡々と,優しく
・保護者の目をみながら,こちらの「大丈夫」を伝える

・保護者の学びや自信を持って子育てしていけるように支援するスタッフは揃っている,やるべきことをやっていけば大丈夫,と保護者が思えるように

・初診時に説明した「音声言語獲得が目標,そのために大切なのが聴覚入力」であることを思い出していただく

診断後の療育支援について

難聴と診断されたあとに保護者が学ぶ為の教育講座DVDがあり11),まずはこども発達支援センターオリブ園(旧難聴児通園施設)あるいは秋田県立聴覚支援学校のどちらかで,担当言語聴覚士や教師の支援のもとでDVDを通して一般的な知識を学んでいただく.並行して補聴器開始,手話紹介などを行う.このDVDを一通り学び終わるのに2ヶ月程度かかり,終了したところで,もう一つの療育機関(オリブ園あるいは聴覚支援学校)を見学にいき,最終的に保護者が選択する仕組みになっている.それぞれの長所を理解し,両方の療育機関を選択する保護者もいる.全国早期支援研究協議会編の冊子1214)は非常に有用で診断直後に渡している.診断後の再診は概ね2–3ヶ月後になるが,このときには難聴遺伝子や人工内耳についての質問が多い.いずれも概要を説明しつつ秋田大学で対応できることをお伝えし安心していただく.担当耳鼻咽喉科医と保護者が会うのは数ヶ月に1回の10–20分程度の時間に過ぎないが,保護者は全ての時間を子どもと共に過ごしている.診察時には良いことを最大限褒めるようにしている.たとえば,「CORで既に80 dBの反応有,音が大好きなお子さんです」「よく声が出ていてお母様の返事も上手,2音節風の喃語を2音節風で返し抑揚も上手に真似していますね」など.保護者の観察眼を育て勇気づけること(encourage)が何よりも重要である.

おわりに

今回は新スクを巡る様々な準備と初回面接,高度重度難聴説明に絞って記載した.実際の臨床場面では中等度難聴,高音急墜型,一側性,未熟性と軽度難聴の鑑別が難しい場合,これに中耳炎が加わったり治ったり,など多くの診断をしなければならないが,紙面の関係で今回は割愛した.精密医療機関の耳鼻咽喉科医の役割は正確に診断することが第一であることは当然としても,その子どもが将来社会で活動し参加していくときの環境をどのように整えていくかを常に視野に入れて対応していくことが不可欠である.これらの展望があってこそ診断の意味するものが見えてくるからである.そのきっかけを作ってくれたのが2001年に開始した新スクの仕組みづくり,すなわち行政・医療・療育・教育などが共通認識のもと,当事者を中心に据えた多職種連携の仕組みづくりだったように思われる.紙面をお借りして,秋田県内の関係各位に深く感謝申し上げます.

利益相反に該当する事項:なし

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