先天性難聴児の多くが乳児期に診断され,保護者のもと補聴器や人工内耳の装用や療育が開始されるが,当事者である難聴児主体の医療への移行についてはあまり意識されてこなかった.セルフアドボカシーのスキルを育てるためには,まず難聴児が自らの聴覚障害を理解することが不可欠である.子どもへの医学的な情報提供は年齢と成熟度に応じて随時行われるべきであるが,9歳頃からが一つの目安になると考える.中高生になれば難聴の機序も理解できるようになる.伝えるべき内容は聴覚の解剖生理,難聴の機序,聴力図の見方などの医学的知識や,多様性,セルフアドボカシーなど多岐にわたる.押しつけにならないよう,子どもにわかる言葉で正確な情報を伝えるように心がける.保護者にも配慮しつつ子どもの意志を尊重し,自己肯定感,自尊感情を高めるように意識することも大切である.聾学校などの教育機関と連携することも有用であると考える.
国連の子どもの権利条約第12条の1は,「締約国は,自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する」と述べている1).また日本小児科学会は「小児期発症疾患を有する患者の移行期医療に関する提言」2)の中で,小児医療において保護者や医師のもとでの保護的な医療から,小児個人の人格の成熟に伴って,自律的な医療へ変化してゆくことの重要性を指摘している.しかし,先天性心疾患を持つ小児の検討3)では,患児,保護者,医療者それぞれの問題により疾患理解が進まないことが指摘されている(図1).

文献3)を参考に作成
先天性難聴児においても,現在その多くが乳児期に診断されて補聴器や人工内耳を装用し,これらの機器とともに育っている.医療機関における難聴診断時の説明は保護者に対して行われ,保護者支援に重きが置かれる.しかし,そこから当事者である難聴児主体の医療への移行についてはあまり意識されてこなかった.幼い子どもにとっては自分の聞こえ方が当たり前であり他者と比較することは難しく,難聴に起因する不都合を自覚しにくい.また補聴器や人工内耳は当たり前に存在するもので,仕組みについての知識を与えられる機会は乏しい.保護者もしばしば子どもに伝えられるほどの十分な知識を持たない.一方で,セルフアドボカシーのスキルを育てるためには,まず難聴をもつ当事者が自らの聴覚障害を理解することが不可欠である.
難聴児に聴覚やその障害,特に自身の難聴について情報提供をするにあたり,どの程度の知識を持っているかを知っておくために,われわれは小児期から当院に通院中の8歳から24歳の若年難聴児者88名とその保護者79名を対象に,聴力図の読み方や難聴の理解についての調査を行った4).聴覚管理のための定期受診時に,自己記入式のアンケートを用いて聞こえについての説明を聞きたいかどうか尋ねたところ,説明を希望したのは当事者の39%,保護者の58%であり,保護者の方が高い関心を示した.当事者の55%は「どちらでも良い」との回答であった.聴力図の見方を「よく知っている」と回答した当事者は3%,「だいたい知っている」と回答したのは38%に過ぎず,59%は聴力図の見方をよく知らなかった.
自身の難聴の程度について,なし,軽度,中等度,高度,で尋ねると,正しく知っていた当事者は40%にすぎず,35%が実際よりも軽く認識していた(図2 A).また保護者においては子どもの難聴の程度を正しく知っていたのは73%で,23%が実際よりも軽く認識していた(図2 B).難聴があることが当たり前として育ってきた当事者や保護者は,他者との違いや不自由を自覚しにくく,難聴を過小に捉えやすいことが示唆される.また,伝音性か感音性か混合性かの難聴の種類を正しく認識していたのは当事者の18%(図2 C),保護者の69%であり(図2 D),当事者の多くが知らなかった.

聴覚管理のための定期受診時における,当事者(A)と保護者(B)の難聴の程度の認識,当事者(C)と保護者(D)の難聴の種類の認識を示す.
これらのアンケートの結果を踏まえて診察時に聴力図などを見せながら説明を行うと,その直後の確認アンケートでは当事者も保護者もそのほとんどが聴力図の見方,難聴の程度や種類を正しく回答することができ,主治医が正しい医学的知識を伝えることの重要性が示された.
子どもの発達や,保護者の意向などの環境はそれぞれ異なることから,情報提供を始める年齢を一律に決めることはできない.前述の日本小児科学会の提言2)では,「説明は子どもが一定の年齢になるのを待つのではなくその年齢と成熟度に応じて行われるべきである」とされている.当事者の理解の程度や受容の様子を推し量りながら,伝える時期や情報の量,内容を考える必要がある.
一般的に,小児は9歳頃から周囲と比較して自己を評価し,小学校高学年になると学んだ知識を体系化し分析できるようになり,自己肯定感も育ってくる5,6).また聴力図の理解のためには算数や理科の知識が必須であり,難聴の機序を理解するためには生物の知識が必須である.学校教育で耳のしくみを学ぶのは中学2年生の理科と高校の生物であることなどを考えると,聴力図を見せながら聞こえについて話すのは9歳頃から,難聴の機序を説明するのは中学生頃からが,一つの目安になると考える.小学校卒業などの節目にきちんと伝える,というのも良いかもしれない.
伝えるべき医学的知識としては,聴覚の解剖生理,難聴の機序,聴力図の見方,当事者自身の難聴の程度と種類,使用している聴覚補償機器などがある.幼児期から人工内耳を装用している場合,自身の体内にどのような機器が埋め込まれているか知らないことも多い.当事者が希望すればインプラントの見本などを見せて,そのしくみを説明する.
また,医学的知識にとどまらず,多様性とセルフアドボカシーについて伝えることも必要である.すなわち人はそれぞれ異なり聞こえもそれぞれ違うこと,難聴は見た目にわかりにくく自分の聞こえ方は自分にしかわからないこと,自ら必要なことを発信しなければならないこと,などである.
子どもがわかる言葉で,正確な情報を伝えることを心がける.まずは当事者の聴力図を見せながら,聴力図の見方を説明する.聞こえのしくみや当事者の難聴に関しては模式図を用い,なるべくわかりやすく具体的に話す.専門用語は難しいが,音圧や周波数の単位や,「感音難聴」「伝音難聴」などの重要な言葉は,少しでも記憶にとどめられるよう文字で示すこともある.初回の説明ですべてを理解させる必要はなく,子どもの反応を見ながら伝える内容を考える.
ポジティブな態度で伝えることも大切である.難聴は「悪いこと」ではない.聞こえない,できない,ではなく,できることや得意なことがたくさんあること,他人の助けを必要とすることがある一方で,他人のためにできることがあることを話す.
また,「あなたは大切な存在である」というメッセージを発信することで自尊感情,自己肯定感を育てる一助になれば良いと考えている.そのために,時には難聴が診断されたときに保護者が子どもの補聴器装用や療育に尽力したこと,人工内耳埋込術を決める際に保護者と医療・教育・福祉の専門家が合同で術前検討会を行ったこと,なども話す.これらは乳幼児期から関わっている医療者だからこそ提供できる情報であるといえる.
当事者である子どもと,その家庭環境はさまざまであり,一律には捉えられない.子ども自身が発達遅滞や発達障害を持つこともある.時には家庭の問題などにより適切な養育環境が与えられてこなかった子どもにも遭遇する.当事者や家族が日本語音声言語を母語としない外国語使用者や手話使用者の場合,複雑な情報を伝えるのに難渋することも少なくない.
また,難聴の原因が先天性サイトメガロウイルス感染症や遺伝性難聴の場合は,特に保護者の意向にも配慮が必要である.先天性サイトメガロウイルス感染症の検査や先天性難聴の遺伝学的検査のほとんどは,乳幼児期に保護者の代諾によって行われている.日本小児科学会は,保護者などの代諾で小児期に実施した遺伝学的検査は概ね16歳以上の理解能力が進んだ段階で本人に説明することを原則としている7).しかし,難聴の原因に関する情報は,治療などにおける当事者の自己決定に有用となる可能性もある.子どもが原因を知りたいと希望した場合,あるいは保護者から伝達の希望があった場合,さらには医療者が必要と判断した場合は,当事者と保護者に最善であるようインフォームド・アセントに基づいた情報提供を検討しなければならない.また,先天性難聴の多くは感音難聴であり,現状で治すことは難しい.「私の難聴は治りますか」という当事者からの質問に対して,ネガティブにならず事実を伝えるようにしたい.
押しつけにならず,当事者の興味を引き,主体的な学びを促すような伝え方を心がけることにも留意する.1回の説明で内容の定着を期待することは難しい.外来でアンケート調査と情報提供を行った若年難聴児者88名のうち,49名に対して1年後に確認の調査を行ったところ,聴力図の見方については67%が「よく覚えている」「だいたい覚えている」と回答した.しかし,縦軸の意味・単位,横軸の意味・単位,左右の気導聴力の記号,といった個々の要素の正答率はいずれも50%以下で,特に横軸の意味の正答率は30%であった.難聴の程度について正しく認識していたのは70%(図3 A),難聴の種類について正しく認識していたのは50%(図3 B)で,いずれも1年前に初めて情報提供を行う前よりは高かった.しかし誤答,あるいは知らないと回答する例も多く,繰り返し情報を伝えることの必要性が示唆された.

難聴についての初回の説明から1年後における,当事者の難聴の程度の認識(A)と難聴の種類の認識(B)を示す.
われわれは,教育機関である三重県立聾学校,行政の福祉機関である三重県難聴児支援センター,医療機関である三重大学および当院の耳鼻咽喉科による合同会議を定期的に行っている.その場で若年難聴児者へのアンケート調査結果を共有し,「聞こえのワークブック」8)を紹介した.その結果,聾学校では小学部6年生の児童を対象に,自立活動の時間に本ワークブックを用い,児童と保護者全員の同意を得た上で互いの聴力図を使った学習などを始めたとのことであった.
教育機関である学校と,医療機関には,難聴児への関わりにそれぞれ特徴がある(表1).医療機関で個々の難聴児に合わせた専門的な知識を伝えるとともに,教育機関での継続した系統的な講義により知識を定着させるよう,連携することが望まれる.
| 医療機関 | 教育機関(学校) | |
|---|---|---|
| 利点 | ・正確な医学的知識をもつ専門家である ・本人に合わせた個別の情報が提供できる |
・子どもに知識の提供を行う教育の専門家である ・時間をかけて計画的,系統的な話ができる |
| 欠点 | ・まとまった時間や回数の確保が難しく,系統的な話をしにくい |
・集団の中で個別の話がしにくいため,当事者が自分のこととしてとらえにくい |
われわれが若年難聴児者に対して,調査と難聴についての説明を行った際,20歳代の当事者から「(難聴について)もっと早く聞きたかった」との発言があり,反省させられた.難聴は医療者にとっては疾患であるが,当事者にとっては自身の特性そのものといえる.難聴児が自らを知って主体的に生きていけるように,関係機関と連携して小児期から正しい情報を伝えることは医療者の責任であると考える.
利益相反に該当する事項:なし