抄録
室内環境向上の一策として行われてきた,作業空間へのかおりの噴霧について,かおりを作業者が好むか否かの影響が大きいのではないかと仮説を立てた。そこで,予備実験より選定した12名の全被験者が好むグレープフルーツ,全員が嫌うアニスシード,嗜好が約半数に分かれたユーカリブルーガムの3種の精油と水道水のみの計4条件を噴霧した環境下で一位加算作業を実施し,かおりの嗜好と正答数の関係を検討した。また,作業前後に唾液アミラーゼと心拍の測定,心理状態評価を実施して,ストレスや心理状態とかおりの嗜好との関係を検討した。その結果,正答数,心拍変動,ストレスへのかおりの嗜好の影響で有意差は見られなかったが,心拍変動では,グレープフルーツで副交感神経活動がわずかに高い傾向を示した。心理状態評価は,グレープフルーツで総じてポジティブに,アニスシードで総じてネガティブに捉えられ,かおりの嗜好の影響が示唆された。ユーカリブルーガムについては,被験者を2群に分けて「好き群(6名)」と「嫌い群(5名)」の比較も実施したところ,有意差はないが,「好き群」が「嫌い群」よりも正答数がわずかに高く,ストレスがわずかに解消側であり,心拍から推定される副交感神経指標,交感神経指標ともわずかに高かった。心理状態評価では,「好き群」は「嫌い群」よりややネガティブな評価を行う傾向が見られたが,身体的状態の評価でのみ非常にポジティブな評価だった。被験者をより多くした検討が今後必要だが,同一のかおり内での嗜好群の比較から,かおりの嗜好が作業効率やストレス,心理状態に及ぼす影響の可能性の一端が示唆された。