抄録
MCSの発症・症状発現要因として近年,化粧品や洗剤など香料入り製品のにおいが多く挙げられる。これらの経験や記憶はMCS患者の嗅覚知覚に影響を及ぼしていることが考えられる。本研究では,MCS患者の嗅覚知覚特性として,においの同定能力およびにおいの種類の告知がにおい評価に及ぼす影響を明らかにするための実験を行った。提示した試料の臭気強度について,MCS患者群と対照群の群間での差はなかったが,においの種類の告知の有無で比較すると,告知なし条件よりも告知あり条件の臭気強度が高い傾向にあった。提示した試料の快・不快度について,MCS患者群は対照群に比べて全体的に不快度が高かった。においの種類の告知により不快度が軽減し快側に変化したにおいがMCS患者は4種類,対照群は2種類,より不快側に変化したにおいがMCS患者は1種類,対照群は3種類だった。変化したにおいの種類はMCS患者群と対照群で異なっていた。また,においの同定検査の結果について,MCS患者群と対照群で正答率の高いにおいの種類に違いがみられた。12種類のにおいの正答数の合計について有意差はみられなかったが,MCS患者群に比べて対照群の方が正答数の合計が高かった。