抄録
近年,厚生労働省により室内濃度指針値が設定された揮発性有機化合物(VOCs)に替わる代替物質や生活用品,微生物由来VOCsによる室内空気汚染が確認されている。このように多様なVOCsによる健康リスクを評価するには,室内化学物質汚染を包括的かつ継続的に把握することが求められる。本研究では,パッシブサンプラーを用いて,室内空気中で高頻度に検出される93種類のVOCsに対するサンプリングレート(SR)を曝露試験により算出した。本研究で得られたSRは,全ての対象化合物において吸着量と曝露量に高い直線性(R2 > 0.95)と再現性(RSD < 15%)が得られた。また,模擬室内環境における検証においても,曝露チャンバー法によるSRとの乖離は最大15%以内であり,様々な実環境で適用が可能となった。さらに,分子拡散係数を用いた理論的SR(SRfu)と実測値SR(SRex)を比較した結果,沸点110℃以上の化合物においてはSRfuとSRexが良好に一致し,SR推算が有効であると考えられた一方で,低沸点化合物では両者に大きな乖離が見られた。また,分子体積(Volume3D)とSRの関係を解析した結果,分子の体積が鎖状炭化水素や環状シロキサンにおけるSR低下の主要な要素であることが明らかとなった。