室内環境
Online ISSN : 2186-4322
Print ISSN : 1882-0395
ISSN-L : 1882-0395
原著論文
共同利用ピアノ鍵盤の微生物汚染実態と衛生管理
岡崎 貴世 後藤 菜摘金崎 沙椰田中 裕子
著者情報
ジャーナル オープンアクセス

2025 年 28 巻 3 号 p. 225-233

詳細
抄録
本研究は,多数の人に共用される鍵盤楽器,特にピアノ鍵盤における微生物汚染の実態を明らかにし,その衛生的な使用方法を提言することを目的とした。大学の音楽施設内に設置された共用ピアノの鍵盤を対象に,ATP拭き取り検査と細菌検査を実施し,汚染状況を評価した。ATP拭き取り検査では,鍵盤の両端(低音部および高音部)で高いATP値が検出される一方,主要な演奏領域である中音域は比較的低い値を示した。しかし,夏季に実施した6台のピアノの中音域調査では,全体的に高いATP値が確認され,汚染度が高いことがわかった。細菌検査の結果,すべての鍵盤から多数の一般生菌が検出され,その多くはヒトの手指由来と考えられるブドウ球菌属であった。さらに,2台のピアノ鍵盤から黄色ブドウ球菌が検出され,健康影響のリスクが示唆された。除菌効果を検証した結果,不織布による乾拭きでも菌数は約10分の1に減少し,市販の鍵盤用クリーナーは,除菌剤配合の有無に関わらずいずれも菌数を2桁減少させる高い除菌効果を示した。以上の結果から,共用ピアノ鍵盤は潜在的な微生物伝播のリスクを有することが示された。したがって,鍵盤素材に適したクリーナーを用いた使用後の清掃励行,手指衛生の徹底,そして使用者への継続的な注意喚起と衛生意識向上が,共用楽器の衛生的利用と感染リスク低減のために重要であることが示唆された。
著者関連情報
© 2025 一般社団法人 室内環境学会
前の記事 次の記事
feedback
Top