日本シルク学会誌
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学術論文
明治期に官立蚕業講習所が開発した「藁囲蚕室」
齊藤 有里加 横山 岳高橋 美貴
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2022 年 30 巻 p. 105-116

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抄録

本研究はこれまで見過ごされてきた「藁囲蚕室」に着目し,明治20年〜30年代の蚕業試験場・蚕業講習所による適正技術開発事例を新たに見出したものである.東京農工大学科学博物館に残る当時の模型教材,写真等を用い,藁囲蚕室の蚕室構造を分析した.その結果,当時の先端養蚕技術「折衷育」が可能な換気・加温構造を有していた.また,農商務省提唱の標準飼育の平均温度華氏70度(21.1℃)で,夫婦2名を想定した試験検証実施と国外技術紹介,また夏秋蚕,条桑育など後の技術改良との接点も確認した.本研究結果は,明治期の官立蚕業教育機関が民間機関に比べ実務的な技術改良への貢献が少ないと指摘されてきた点を覆すものである.特に藁囲蚕室の空気調整機構は現代において非電力型養蚕設備の開発に示唆的で,現代における僻地・貧困農家での養蚕普及の課題解決に寄与する成果であり,学術資料を用いた蚕糸技術の再発掘を新たに提唱するものである.

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