理科教育学研究
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原著論文
中学校理科にイオンをどうとり入れるか : 現教育課程におけるイオン学習の実践
高橋 治菊地 洋一武井 隆明村上 祐佐藤 明子
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2006 年 46 巻 3 号 p. 33-43

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抄録

平成10年の中学校学習指導要領の改訂により.理科から「イオン」学習が削除された。現在は「イオン」を発展的に扱うことが可能ではあるが,物質の基本的な構成要素であるイオンを義務教育段階ですべての中学生が学習する保証がないことには多くの問題がある。また,現指導要領の学習内容およびその配列では,粒子概念を学習しない段階で物の溶け方や状態変化の学習を行うことになっていたり,イオン概念を学ばないまま「酸・アルカリ・中和」の学習を行うため現象のみを確認する学習にとどまっている。これで生徒の「科学的な見方・考え方, 自然に対する総合的なものの見方」が育成できるのかと危惧される。そこで生徒の発達段階と理科の他領域の学習内容とのつながりを勘案し,「科学的な見方・考え方, 自然に対する総合的なものの見方」の育成に資するものとして「イオン」学習を組み入れたカリキュラムを構想した。次に,その中でポイントとなる「原子とその構造からイオンまでの学習(微視的な概念)」を中学1年生に導入する具体的な授業展開案(4時間)を作成し,授業実践を行った。その授業に関して,生徒が理解可能であるのか,および生徒の興味関心などの調査を行い,実践の検証を行った。結果は以下のとおりであった。1) 学習後の確認テストにより生徒の理解の状況を調べたところ,10の設問における正答率の平均は80%以上と良好であった。また生徒の授業評価においても80%以上が「よくわかる」,「だいたいわかる」と答えた。2) 生徒の授業評価から多くの生徒が「楽しく」,「興味を持って」授業に臨むことができ,「ふだんの生活や社会でも役に立つ」内容であると捉えていることがわかった。これらの結果から「原子」「イオン」を物質の基本要素として学習することは,中学1年生という発達段階でも可能であると考える。

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© 2006 日本理科教育学会
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