2011 年 51 巻 3 号 p. 47-58
中学校における電気単元を事例とし、アナロジーを基盤にして認知的な葛藤を生起・促進し、それを解消することで、科学的な理解が促進されること、およびそのアナロジーの活用方法の有効性を、質問紙調査およびプロトコル分析によって探った。その結果、次のことが明らかとなった。(1) 生徒の学習前の科学的に適切とはいえない考えを代表するアナロジーと、それとは明確には異なって、より科学的なモデルに近いアナロジーという、対照的な複数のアナロジーの導入は、認知的な葛藤を生起・促進し、それを解消するという教授展開において有効であった。(2)背理法的な推論プロセスと関連付けて、生徒の考えを代表するアナロジーを評価すると同時に、そのアナロジーによって、生徒の電流のモデルを評価するというプロセスを通じて、生徒の認知的な葛藤を生起・促進する効果が認められたのであった。(3) 生徒の考えを代表するアナロジーの限界が明白になり、認知的な葛藤が高まった場面は、生徒自身による新たなアナロジ一生成の時機でもあった。このとき、科学的なモデルに近いアナロジ一を導入することによって、先の認知的な葛藤が解消され、生徒の考えを変容・転換させることにつながり、生徒自身がその認知的な変容も実感しうるのであった。(4) 構造化されたアナロジーによって、科学的な意味で未分化であった生徒の考えのうちに、関連概念間の区別が意識化されるような、科学的な理解の促進効果があった。