2000 年 1 巻 1 号 p. 22-26
昆虫では,外皮クチクラや卵殻,ゴキブリ・カマキリの卵嚢,野蚕の繭などの保護性構造物は,形成直後は白く柔らかいが,徐々に着色しながら丈夫な構造に変化する。この現象は硬化と呼ばれており,硬化に際して,構造物の主成分であるタンパク質間にフェノール化合物による架橋構造が形成される。その形成方法には2種類あり,フェノール化合物のベンゼン環を介して架橋する場合(キノンタンニング)と,側鎖を介して架橋する場合(β硬化とキノンメチド硬化)とがある。今回,クローパー害虫のウリハムシモドキ卵殻の硬化機構を調べたところ,卵殻加水分解物中に架橋物質と考えられるフェノール化合物を同定した。それらは,3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸のベンゼン環に,含硫アミノ酸の一種,システインが1分子あるいは2分子結合した化合物だった。一方,成虫の体内には,雌にのみ,3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸が存在した。従って,ウリハムシモドキ卵殻では,3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸を硬化剤とするキノンタンニング硬化が起こっていることが示唆された。