2017 年 17 巻 1 号 p. 19-28
癌の化学療法として多くの抗癌剤が使用されているが、ほとんどの抗癌剤は癌細胞の増殖を抑制することを目的に開発されたものである。しかし、これらは正常細胞に対しても同様な抑制効果を示すため、副作用などの点で問題が生じている。これに対して、癌細胞の増殖、浸潤、転移などに関係する分子を標的として、その分子を阻害することにより、癌細胞だけを攻撃することを目標とした分子標的治療薬の開発が進んでおり、正常細胞へのダメージを少なくする点で効果が期待されている。分子標的治療薬には、低分子化合物とモノクローナル抗体がある。細胞の代謝のなかでもスフィンゴ脂質代謝が、癌細胞の増殖、細胞死、転移などと深く関与していることが明らかにされた。また、それらの阻害薬が癌細胞のアポトーシスを増強することを示唆する多くの結果が得られている。ここでは、スフィンゴ脂質代謝を中心に、癌細胞の増殖、細胞死などとの関わり方について、筆者らの結果を合わせて詳細に紹介し、スフィンゴ脂質代謝の阻害が癌の分子標的治療薬のターゲットとして有効である可能性について考察する。