2005 年 5 巻 1 号 p. 22-30
Krabbe病の臨床、病理および生化学的表現型には幾つかのユニークな特徴があり、その中には遺伝性ライソゾーム病の共通概念に必ずしもあてはまらない点がある。初期の研究で、脳に注入したガラクトシルセラミドがグロボイド細胞反応を引き起こすことが示された。次いで、30年前、ミエリン及びミエリン形成細胞の急速かつ完全な消失という現象に着目し、疾患の発症メカニズムを推定したサイコシン仮説が提出された。サイコシンは強い細胞毒性を示す物質であるが、疾患原因てある遺伝的欠損酵素による分解を受けない。従って、この仮説は、2つの相反するような現象、即ち、一方では患者脳におけるオリゴデントロサイトの極めて急速な消失があり、他方では基質であるガラクトシルセラミドの蓄積が認められない、という矛盾を解明しうるものであった。実際に、ヒトKrabbe病とマウスおよびイヌ疾患モデルの脳にサイコシン蓄積が証明されるのには10年を要した。その間、サイコシン仮説は古典的乳幼児型Krabbe病を説明しうる病理機序メカニズムとして徐々に受け入れられて行った。さらに近年のサポシンA (in vivoにおけるガラクトシルセラミド活性化タンパク)を欠損したマウスモデルの研究から、疾患プロセスヘの新しい知見が得られてきた。即ち、Krabbe病の原因と成り得る2番目の欠損遺伝子が同定されたばかりでなく、上記の2つの相反現象の成立には、それぞれ独立した発病メカニズムが存在することが判明したのである。現在、グロボイド細胞反応はガラクトンルセラミドによって引き起こされ、ミエリン形成細胞の消失はサイコシンに起因することか明らかとなっている。しかしながら、主要組織適合抗原系の関与や他の免疫メカニズム、多種サイトカインの活性化に代表される炎症プロセス、また、性ホルモンの関与など、解明されるべき問題点も多く残されている。