2013 年 28 巻 1 号 p. 34-38
68歳,女性。約2ヵ月前より臍部の硬結を自覚した。皮膚生検の病理組織学的検討では角化傾向を有する異型性の強い腫瘍細胞が表皮と連続性に真皮深層まで浸潤する像がみられたことより皮膚有棘細胞癌と考えた。術前のMRI検査で,腹腔内膀胱上方に10.5×13.5×17cm大の表面平滑で周囲組織と境界明瞭な腫瘤がみられ,良性卵巣嚢腫が疑われた。しかし,臍部の腫瘤とともに行った嚢腫の摘出術で術中に悪性と診断,腸間膜を含め拡大切除した。最終的に,自験例は右卵巣成熟嚢胞奇形腫の悪性転化とそれに伴うSister Mary Joseph’s Noduleと診断した。術後維持化学療法としてTC(Paclitaxel・Carboplatin)療法を施行し,約1年6ヵ月寛解を維持している。卵巣成熟嚢胞奇形腫は稀に悪性化し,その場合,扁平上皮癌の組織像を呈することが多い。臍部に転移すると皮膚有棘細胞癌と鑑別が困難となる。自験例は皮膚科医にとって重要な知見と考えられた。