抄録
60歳代,女性。3ヶ月前から口腔内にびらんが生じ,体幹にも紅斑が出現した。初診時,口唇,口腔粘膜,舌にびらん,背部に紅斑を認めた。血清抗デスモグレイン1抗体と抗デスモグレイン3抗体陽性,病理組織で基底層直上での水疱形成と水疱内棘融解細胞,蛍光抗体直接法で表皮角化細胞間に IgG の沈着を認め尋常性天疱瘡と診断した。ステロイド全身療法に抵抗性で,シクロスポリン全身投与と免疫グロブリン大量療法(intravenous immunoglobulin; IVIG)を併用して寛解した。経過中にステロイド性糖尿病,白内障,ミオパシーが発症し,切除困難な膵腫瘍が確認された。IVIG を反復投与し,ステロイドとシクロスポリン全身投与をできるだけ減量した。多臓器不全で死亡するまでの3年間に17クールの IVIG 療法を施行し,おおむね良好な寛解状態を維持できた。合併症や併発疾患のためにステロイドやシクロスポリンの減量を図りたい尋常性天疱瘡症例に対し,IVIG 反復投与が有用である可能性が示唆された。(皮膚の科学,15: 119-124, 2016)