抄録
40歳代,男性。舌咽神経痛に対してカルバマゼピンの内服を開始した1ヶ月後に,発熱,そう痒を伴う皮疹が出現し,徐々に拡大してきたため当科を受診した。初診時,眼周囲を除く顔面全体に紅斑を認め,体幹,四肢にも浮腫性紅斑が多発,融合し,頸部リンパ節腫脹を触知した。肝酵素上昇があり,病理組織では基底層の液状変性,真皮上層の血管周囲性炎症細胞浸潤を認めた。内服薬を中止し,プレドニゾロン 30mg/日の内服を開始した。皮疹と肝機能異常が軽快したため,プレドニゾロンを漸減,中止した。皮疹軽快後のパッチテストではカルバマゼピンで陽性を示したが,リンパ球刺激試験では陰性であった。経過中,ヒトヘルペスウイルス6型,および7型,サイトメガロウイルス,EB ウイルスの再活性化はみられなかったため,本症例をカルバマゼピンによる非典型 DIHS と診断した。退院後に,気分の落ち込み,希死念慮が出現し,当院精神科を受診し,うつ状態と診断された。精神科での抗うつ薬による治療で症状は3ヶ月後には改善した。DIHS では症状が回復した後に自己抗体の出現や自己免疫性甲状腺炎,劇症1型糖尿病などを発症する症例が知られているが,精神症状を来した症例は稀と思われる。(皮膚の科学,16: 129-132, 2017)