抄録
40歳代,男性。初診時,両前額部の境界鮮明な暗紅褐色浸潤性紅斑を認めた。一般検査に著変無く,抗核抗体・抗 DNA 抗体・抗 SS-A/SS-B 抗体はすべて陰性であった。病理組織:表皮基底層に液状変性無く,真皮乳頭層の血管周囲性,一部附属器周囲性のリンパ球主体の細胞浸潤を認めた。コロイド鉄染色では真皮全層に陽性,特に膠原線維間が強陽性であった。経過中日光暴露による皮膚症状の悪化を認め,Lupus erythematosus tumidus(以下,LE tumidus と略)と診断した。LE tumidus は1930年 Gougerout & Burnier らによって最初に報告されたが長年注目されておらず,2000年 Kuhn らが40例を報告後に再注目された。2007年 LE tumidus の診断の手引き(石橋)によれば,LE tumidus は露光部に好発し,光線過敏を認めることが多い表皮の変化を伴わない蕁麻疹様紅斑局面で,真皮の血管周囲性・附属器周囲性のリンパ球浸潤と真皮全層のムチン沈着を認め,Lupus band test は通常陰性,免疫学的異常は陰性,抗核抗体は陰性あるいは低力価で陽性,全身症状は認めないことが多い。自験例を含めた31例の本邦報告例の集計を機に,皮膚 LE の一型として注目される本症の特徴を検討すべく,2010年 Shumitt & Kuhn らの報告と比較し,LE tumidus の診断の手引き(石橋)の各項目について検証を試みた。我々の検証では,LE tumidus は SLE の診断基準を満たさないとは限らず,Lupus band testも必ずしも陰性であるとは言い切れず,免疫学的異常を伴う例も少なからずみられることから,当該診断のてびきは修正が必要であると考えられた。(皮膚の科学,17: 98-104, 2018)