バイオメカニズム学会誌
Print ISSN : 0285-0885
解説
循環系におけるマルチスケール計算バイオメカニクス
劉 浩
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2004 年 28 巻 4 号 p. 173-178

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抄録

循環系における血液の流れのシミュレーションは,臨床応用を最大な目標とする予測医学のための有用なツールとして重要視されつつある.このような血流シミュレーションを目的とする,循環系における計算バイオメカニクスは,近年計算機性能の爆発的進歩と医用画像の飛躍的高精細化により,従来の理想化されたモデリングによる一般論的な現象解明から,患者個別情報を用いたシミュレーションベースト診断や手術予測等を可能にする統合的計算生体力学システムの研究開発へと,急速に脱皮しつつある.予測医学とは,超音波やMR(核磁気共鳴)やX線CTなどの医用画像を利用して,計算機上に生体の構造と機能について,厳密な力学モデルをつくりあげ,大規模な方程式を解き,疾病や障害の過程を目に見える形で捕らえ,シミュレーションによる血管疾患の診断と外科手術計画及び手術後予測を実行することができるようなものである.このような新しいパラダイムを実現させるために,大動脈や各臓器から毛細血管,そして細胞までの広大なスケール間の階層性と階層間の力学的相互作用を考慮した,いわゆるマルチスケール生体力学シミュレーションに基づいたヒト循環系シミュレータは必要不可欠と思われる.本稿では,循環系におけるマルチスケール計算バイオメカニクスの考え方と有用性について,大動脈や腎動脈の中の血流モデリングの実例を交えて述べる.

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© 2004 バイオメカニズム学会
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