2020 年 44 巻 3 号 p. 141-146
歩行補助に用いられる杖について,一般的に使用される一本杖(T 字杖)に絞って,その目的および作用から,杖を用いた歩行(以下,杖歩行)の効果を概説し,筆者らの行った杖歩行の力学的解析のための計測杖の作製と,それを用いた解析事例を紹介した.杖は,立位および歩行時のバランス保持と,免荷すなわち下肢荷重の軽減を目的に使用され,生体力学的安定をもたらし歩行運動を補助する.計測杖を用いた脳卒中片麻痺者の杖歩行時の左右脚の逆動力学解析により,下肢関節モーメント波形に麻痺側と非麻痺側の間で大きな非対称性があることと,リハビリテーション後に杖への依存が減少し麻痺側関節モーメント生成能力が増大することを示した.