2023 年 64 巻 2 号 p. 69-83
中国語を母語とする中上級日本語学習者が,現代日本語の小説の冒頭数行に記された会話文の発話主をどのように同定しているかを,①学習者の母語への翻訳課題,②物語内容についての多角的な質問,という方法で調査した。その結果,引用節内の終助詞,接続表現,及び伝達節以外の地の文の接続表現,指示語,文末形式,後続する会話文の発話主が手がかりとなっていることがわかった。誤読の要因としては,文化的慣習・ジャンルに関する知識の不足,既知の語彙・文法の運用の失敗,その他の物語内容についての誤読の影響が見られた。また,全体から違和感を感じ取り文脈の再構築を試みることが誤読の回避につながっていた。