読書科学
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64 巻, 2 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
原著論文
  • 読書者と不読書者の情報参照傾向および図書探索志向性に着目した検討
    小野田 亮介
    2023 年 64 巻 2 号 p. 53-68
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/07/16
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,日本の成人による図書探索の特徴を明らかにすることである。予備調査では,大学生(n=209)に本の選び方に関する自由記述を求め,図書探索で参照する24の情報源と,図書探索志向性を測定する項目を抽出した。研究1では,大学生を含む成人(n=346)を対象とした調査を実施し,図書探索において外的指標を重視する「レビュー参照志向」と,直感や偶然性を重視する「セレンディピティ志向」の2因子から構成される図書探索志向性尺度を作成した。研究2では,750名の成人を対象として(1)図書探索における情報参照と,(2)図書探索志向性の傾向が読書行動といかに関連しているかについて,読書者と不読書者の対比による検討を行った。分析の結果,成人は本の内容に関する情報源と,本との出会いの偶然性を重視して図書を探索していることが明らかになった。また,図書探索において偶然性を重んじるセレンディピティ志向性が読書行動をとる確率を高める可能性も示された。これらの結果から,偶然性や直感に基づく図書探索を支援することが成人の読書行動を促す可能性が示唆された。

  • 中国語を母語とする中上級学習者を例に
    伊藤 拓人
    2023 年 64 巻 2 号 p. 69-83
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/07/16
    ジャーナル フリー

     中国語を母語とする中上級日本語学習者が,現代日本語の小説の冒頭数行に記された会話文の発話主をどのように同定しているかを,①学習者の母語への翻訳課題,②物語内容についての多角的な質問,という方法で調査した。その結果,引用節内の終助詞,接続表現,及び伝達節以外の地の文の接続表現,指示語,文末形式,後続する会話文の発話主が手がかりとなっていることがわかった。誤読の要因としては,文化的慣習・ジャンルに関する知識の不足,既知の語彙・文法の運用の失敗,その他の物語内容についての誤読の影響が見られた。また,全体から違和感を感じ取り文脈の再構築を試みることが誤読の回避につながっていた。

  • 文脈効果に基づく文の重要度判定
    渡邉 幸佑
    2023 年 64 巻 2 号 p. 84-94
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/07/16
    ジャーナル フリー

     説明的文章の要点把握のための理論として,佐久間(1989)が注目されてきた。佐久間(1989)によると,統括という概念によって文の要点としての重要度を判定できるという。しかし,佐久間(1989)の統括という概念には不明確な点が残され,文の要点としての重要度を適切に判定できない場合がある。そこで,本稿では,統括という概念の代わりに,関連性理論における文脈効果(認知環境の改善)に着目し,説明的文章の中の文の要点としての重要度は,読み手の認知環境の改善度合いによって決定されるとした。問題提起・答え,まとめ,抽象・具体,逆接に着目するという読解方法が有効な理由は,これらが文脈効果と関わるためである。

  • 小学校及び中学校国語教科書における記述内容の問題とToulmin Modelとの相違
    渡部 洋一郎
    2023 年 64 巻 2 号 p. 95-111
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/07/16
    ジャーナル フリー

     日本における論理教育においてしばしば言及される根拠と理由は,実は,学習指導要領上での区別を含め,小・中学校の国語教科書における説明についても現在もなお不明瞭な点が多い。実際,これまでの実践や研究史上でも両概念の弁別が明確に,そして分かりやすい形で説明されたものは少なく,曖昧性を有したままとなっているのが現状である。本稿は,そうした実態に鑑み,学指導要領上の記述及び小・中学校の国語教科書の内容検討を踏まえる形で,根拠及び理由の概念はなぜ理解とその定着に困難を伴うのか,この点を考察することを第一の目的としている。また,両概念を扱う際にしばしば拠り所とされる Toulmin Model との相違に基づき,日本では余り扱われない3要素の意味を検討すること,及び,日本での援用の妥当性を検討することを第二の目的とした。

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