2023 年 57 巻 1 号 p. 18-27
本稿の目的は,人的資本を会計・ファイナンスの視点から問い直すことにある.そのため,第1に人的資本会計の概念整理を行い,貸借対照表(以下,BS)借方を「人的資産」,貸方を「従業員持分」として明示的に峻別する.第2にBSに計上されている人的資産の事例を取り上げる.サッカーチームの「選手登録権」は個人を測定単位とした人的資産の事例である.組織を測定単位とした人的資産の事例としては,R&D活動のうちの「開発資産」を取り上げる.第3にBS貸方に目を転じて,「従業員持分」概念の提示を通じて,マルチ・ステークホルダー型のBS,「従業員資本コスト」,マルチ・ステークホルダー型WACCという考え方を紹介し,未来の会社の姿をイメージする.