人的資本が注目されているが,その本当の理由は株主傾斜が上場企業で行き過ぎたことへの警戒感ではないか.
日本の大企業は,カネの結合体として株主への分配を増やすことに忙しく,ヒトの結合体の中核である従業員への分配を軽視している.その上,設備投資まで抑制している.それでは,日本企業に成長の未来図は描けないだろう.
企業はカネとヒトの二面性を本質的にもっていることを,もっと深く考えるべきである.
本稿の目的は,人的資本を会計・ファイナンスの視点から問い直すことにある.そのため,第1に人的資本会計の概念整理を行い,貸借対照表(以下,BS)借方を「人的資産」,貸方を「従業員持分」として明示的に峻別する.第2にBSに計上されている人的資産の事例を取り上げる.サッカーチームの「選手登録権」は個人を測定単位とした人的資産の事例である.組織を測定単位とした人的資産の事例としては,R&D活動のうちの「開発資産」を取り上げる.第3にBS貸方に目を転じて,「従業員持分」概念の提示を通じて,マルチ・ステークホルダー型のBS,「従業員資本コスト」,マルチ・ステークホルダー型WACCという考え方を紹介し,未来の会社の姿をイメージする.
近年,経済学における人的資本理論の実証研究には大きな進展があったが,労働経済学者以外の研究者や政策担当者の人的資本理論に対する理解は十分ではない.本稿では,人的資本理論の重要な含意を整理すると共に,近年研究が進んだ領域を概観する.経営に対する有用な含意を含む研究成果として,特に,経営者や管理職層の人的資本,および社会的スキルの重要性の二つに焦点を当てる.これらの研究は,企業の生産性決定メカニズムを理解する上で重要な視点を提供する.最後に,今後更なる研究の蓄積が求められるテーマについても私見を述べたい.
本稿では,人的資本を扱う戦略的人的資源管理(SHRM)研究の文献レビューから,既存研究の課題を整理するとともに今後の研究方向性について議論する.具体的には,株主価値向上モデルに基づく従来のSHRM研究において,人的資本の議論がより狭義の「認知的KSAOs」に限定されている点を明らかにした.さらに,経済的,社会的,環境的側面での価値向上を重視する持続可能性パラダイム下では,「非認知的KSAOs」を含む新たな人的資本の構成要素にも着目することや,既存の認知的KSAOsとの相互作用が重要となることを提起する.
起業家の感情はどのようにスタートアップの提携相手選択に影響しているのか.起業家50 名へのインタビューにより探索的に相手選択基準を検討した結果,自尊感情への理解,相手の姿勢にある類似性への共感,という相手の態度と特質を認知した感情が判断に影響を与えていることを明らかにした.組織と不可分であり感情を持つ個人の,対の関係性における感情への着目から,提携における両者の見方の非対称性の源泉を議論可能にした.
本稿では,組織業績の向上につながる人事管理を志向する理論枠組みであるタレントマネジメントについて,類似性が認められる戦略的人的資源管理との異同を,学術論文1,662編を対象とした計量書誌学的分析を通して検討した.分析の結果からは,両者には複数の視点の違いが見出され,その違いを活かしたタレントマネジメント研究の方向性を模索すべきであることが示唆された.
第56巻第4号,31頁,右段9-10行目に誤りがございましたので,以下の通り訂正します。
(誤) This indicates that the larger the university, the fewer the number of license agreements when an external-integrated TTO is used, which is the opposite of Hypothesis 2.
(正) This indicates that the larger the university, the more the number of license agreements when an external-integrated TTO is used, which is the opposite of Hypothesis 2.