本稿では,幸福度に関する研究を経済学の視点から整理し,「所得」「性別」「年齢」「結婚・出産」の4分野を中心に検討する.結果,以下の5点が明らかとなった.⑴所得と幸福度は視点によって異なり,時系列データでは関連が弱いが,マイクロデータでは所得増加が幸福度向上に直結する.⑵女性の幸福度は男性より高いが,メンタルヘルスの悪化も見られる.⑶従来は年齢と幸福度はU字型だったが,若年層のメンタル悪化で変化が生じている.⑷結婚は幸福度を上げるが,夫婦関係の悪化で低下もする.⑸出産は幸福度を下げ,特に日本では金銭的負担に加え夫婦関係が影響する.
本稿では主観的ウェルビーイングの主たる決定要因として「仕事の幸福」に着目し,「労働時間と主観的ウェルビーイングの関係性」について,2019年3月にフィンランドと日本で行った独自のアンケートデータを用いた分析を行った.分析の結果,フィンランドでは日本と比較して高い主観的ウェルビーイングを維持しながら働くことができていることが示された.
本研究の目的は,ウェルビーイング志向のHR施策群に関するHR帰属の構造を明らかにした上で,日本企業で生じているウェルビーイング志向のHR施策に関するHR帰属の不一致の種類や影響を検討することである.A社B事業部に勤務する従業員に対する調査の結果,ウェルビーイング志向の人事施策に関するHR帰属の修正版の枠組みを提示するとともに,施策の意図に関する3つの不一致が生じていることを明らかにした.
本稿では,複業を通じて個人が知識を深化させるプロセスを明らかにした.インタビュー調査の結果,複業の遂行と並行して,個人の自分軸の確立および人的ネットワークの充実が図られ,知識の深化へと収束することが示された.またそのプロセスが,個人のウェルビーイングの向上に寄与することが示唆された.社会において,個人知を活用することの意義を説く.
本研究は,大学の産学連携 Project-based Learning(PBL)におけるサービス実践を通じて,ウェルビーイング・コンピテンシーの涵養可能性を明らかにすることを目的とする.花と「わたしたちのウェルビーイングカード」を用いた事例の分析により,受容者と提供者の双方に意味変容が生じ,Transfor- mative Service Research(TSR)の枠組みを踏まえた教育・サービス接続の新たな設計可能性を示した.
本稿は,株主の議決権行使が,日本企業における社外取締役の普及を推進したかを実証的に検討する.2010年から 2020年の東京証券取引所上場企業を分析した結果,社外取締役を設置していない企業では経営者の選任議案への株主の反対が増加し,その傾向は海外機関投資家による保有が多い企業,CGコード適用後において顕著になること,また,株主の反対が多かった企業ほど社外取締役を新たに設置することが明らかにされた.
本研究は,国内における高度外国人材の雇用を事例とし,外的整合性と内的整合性の論理がせめぎ合うなかで,いかに日本企業が自社の外国人雇用を意味づけ,実践しているのかを実証的に考察した.外国人雇用に関する本社人事部へのインタビューからは,外的/内的整合性の均衡点を求めた綱引きゲームが行われた結果,留学生活用をその実践の暫定解とみなす共通見解がある一方,その意味づけと実践の内実には企業間で差異がみられた.
基幹系システムを導入する際にコア・コンピタンスとの適合性を考慮する必要があると言われている.基幹系システムの導入は,基本的にベンダー企業と契約して行われる.そのため,ユーザ企業だけでなく,ベンダー企業の能力も重要な役割を担う.本研究では,コア・コンピタンスと基幹系システムの適合性に焦点を当て,ユーザ・ベンダー企業のITケイパビリティとの関係性について実証分析を行う.