急速に普及する画像生成AIの影響を論ずるべく,デザインに関する経営学研究の理論的次元を整理し,デザインマネジメントを3層に分類した.狭義の意匠創作を基盤に,広義にはユーザー体験を含み,現在はビジネスモデルまで拡張されている.調査の結果,画像生成AIは,大規模言語モデルと役割を補完しながら新製品開発を支援し,意匠創作に変革をもたらしている.本研究の考察は,生成AIの組織的な活用の巧拙が,広義のデザインマネジメントや企業競争力に影響する可能性を示している.
本稿では製品デザインを構成する概念の定量化を試みた研究をレビューした.学術論文58本を精読した結果,消費者調査や実験が主流であるものの,アーカイバルデータを活用するものや両者を組み合わせるものがあった.それらを通じて,美観や機能性など様々な構成概念が導出されていた.ただし概念と操作化に通説は見られず,既存の構成概念の整理や代理指標の探索,製品デザインの構成要素のさらなる探求が求められる.
本稿はデザイン思考研究が持つ組織論に対する理論的貢献の可能性を議論する.その視座として,デザインを社会構成主義の観点から捉え,ユーザーやデザイン思考を実践する個人の主観的な規範に着目する.また,デザイン思考の実践をミクロ的基底と捉え,組織の中核的な能力を構築しようとする反復的プロセスをモデル化し,組織アイデンティフィケーションとリーダーシップの観点からその考察を行う.
2010年代以降,イノベーションのための有益なツールとしてデザイン思考やアート思考などに注目が集まっているが,それらは独自のポジションを築きあげ,既存のイノベーション研究との合流を避ける傾向にある.そのため,本稿では,「自分の認知世界の修正に重きを置くグループ」と「記号部分の改定に重きを置くグループ」という枠組みを用いて,それらのイノベーション研究への統合を試みる.
イノベーションの目標とすべき顧客価値として,技術や機能的価値だけでなく意味的価値が重要になった.その象徴としてデザインが経営学の中で注目されている.しかし,デザインを偏重するのは,技術を偏重するのと同様な問題がある.真に求められるのは,それらを統合した価値である.デザイン偏重の問題点と統合的価値の重要性を,SEDAモデル(Science,Engineering,Design,Art)を活用して議論する.
新技術の選択は企業の競争優位性を決定する重要なテーマである.その選択のプロセスや要因について多くの先行研究があるが,競合の開発動静が企業行動にどのような影響を与えるのかについてあまり言及されていない.そこで本稿では,豊田合成と日亜化学の青色LED実用化技術開発の事例研究により,新技術の選択において競合の開発動静が企業行動にどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることを目指す.
感謝には向社会的行動の促進や対人関係の維持・改善の効果があることが,主に一般市民を対象とした研究で明らかになっている.本研究ではこの知見を組織に援用し,ある企業で行われた感謝表明のイベントのログデータを用いて研究を行った.マルチレベル分析を用いた分析の結果,主体的行動ならびに社内評判に対する感謝の効果が一部にみられ,組織においても感謝が有効に機能する可能性が示唆された.