本論文の目的は,イノベーション論の元祖とされるシュンペーターの企業者概念の特徴と意義を,彼が最も影響を受けた経済学者ワルラス,さらにはその源流に位置するJ.B. セーやカンティロンなど,フランスにおける企業者概念の歴史から考察し,現代のアントレプレナーシップ論の歴史的・思想的背景を明らかにすることである.またシュンペーターとよく比較されるカーズナーの企業家論についても,ワルラス批判という観点から考察する.
新種のアントレプレナーシップ現象として,ソーシャル・アントレプレナーシップ(SE)への注目が高まっているが,研究が発展する中で,さまざまな概念化の試みが乱立して全体像の把握が困難になってきている.そこで,本稿はSE研究の軌跡を辿ることで,これまでのSE概念化の整理を行う.その上で,SE概念の固有性に着目して,その社会性基準および資源動員に関する中核的な論点を提示する.
本稿では,家族企業と非家族企業が外部経済ショックに対してどのように対処するかを考察した.その結果,家族企業の方がショックに対してより積極的に行動することで,業績(ROA)の低下をうまく防いでいたことを発見した.アントレプレナーシップは家族企業と対立する概念ではなく,家族企業の発展のために必要不可欠な要素であり,不確実性に対するアントレプレナーシップの優位性が家族企業の業績の高さの1つの要因になりうることを見出した.
近年,起業を支援する地域システムが「起業エコシステム」という名目の下,相当数研究されてきている.これまでの経済地理学で研究されてきた集積論やクラスター論などの地域システム論との類似点や相違点はどこにあり,どのような関係性にあるのか.これまでの研究の限界を論じ,今後の展望を導き出すことを本稿の目的としたい.
本稿の目的は,離職者から以前の所属組織(移動元組織)にもたらされる知の「探索」の機会を通じて,移動元組織が新たな知識を社内に取りこみ商業化に結実させるオープン・イノベーションの実現過程を解明することである.燃料電池用の電解質膜の事例分析を通じて,研究者間の関係的社会関係資本を基に,移動元組織が離職者の移動先の組織と共同研究開発を実施し,組織間で知の「探索」と「活用」の両利きを実現する論理を示した.