近年,経済学における人的資本理論の実証研究には大きな進展があったが,労働経済学者以外の研究者や政策担当者の人的資本理論に対する理解は十分ではない.本稿では,人的資本理論の重要な含意を整理すると共に,近年研究が進んだ領域を概観する.経営に対する有用な含意を含む研究成果として,特に,経営者や管理職層の人的資本,および社会的スキルの重要性の二つに焦点を当てる.これらの研究は,企業の生産性決定メカニズムを理解する上で重要な視点を提供する.最後に,今後更なる研究の蓄積が求められるテーマについても私見を述べたい.