抄録
ワーキングプア急増の直接の背景は,労働市場の巨大な転換日本型雇用の解体による雇用・労働条件の急落と失業増にあるが,そのことによって生じた市場収入の減少はそのまま貧困率の増加につながった。それは,これまでの日本社会の生活安定システムが福祉国家型で作られておらず,勤労世帯の生活保障をほとんどもっぱら日本型雇用に依存していたからである。公的社会支出における勤労世帯向け支出の対GDP比は,OECD諸国中で最低レベルであり,公的教育費支出も最下位だが,日本型雇用の安定による長期雇用と年功賃金,および開発主義国家による地方および低生産性産業にたいする補助は,そうした欠落をおぎなうものであった。日本型雇用と開発主義国家が構造改革によって解体され,経済グローバリズムの深化による経営と雇用の不安定化がすすんだ現在社会生活の安定を取り戻すためには,福祉国家型の大きな政府が不可欠である。