2019 年 11 巻 2 号 p. 87-96
本論文は個的社会における労働市場の構造を明らかにし,その円滑な調整のためには再分配制度が不可欠であること,また再分配に当たっては「非能力主義的平等主義」の原理が必要であることを主張したものである。個的社会とは,ほぼ1990年代に成立した市民社会の新たな段階であり,そこでは社会政策において貢献を前提としない再分配が行われるようになった。労働市場は能力主義的平等主義を原理として運営されてきたが,流動化の進行につれ矛盾が深化している。筆者は,流動化が個的社会では必然の動きであり,連帯原理による支援を構築する必要があると主張した。連帯とは自己決定を拡大するために共同することである。政策の実際も,そうした方向に進んでいると考える。この方向がさらに進展するには,非能力主義的平等主義が社会的に確立されなければいけない。