2021 年 13 巻 1 号 p. 5-18
本稿は,社会政策学会141回大会の共通論題「仕事の世界における権力関係とハラスメント」にかんする座長報告である。第2節では,あらかじめ学会HPに掲載された座長メモを敷衍しつつ,まず国際労働機関(ILO)が創立100周年にあたる2019年の第108回総会で採択した条約190号および勧告206号について,その暴力とハラスメントの定義が「差別」と結びつけられていない点に着目する。ついで,暴力とハラスメントの組織的要因という論点を取り上げる。共通論題当日の質問やコメントを適宜行論に織り込んでいる。本稿の第3節は,190号条約および206号勧告の策定過程を,暴力とハラスメントの定義に焦点をあてて振り返る。第4節では,「第4次産業革命」に直面する日本企業が,情報通信分野のイノベーションで立ち遅れている問題に目を向ける。暴力とハラスメントの撲滅に抜本的に取り組むことは,イノベーションへの隘路を拓くことにもつながると示唆する。