2021 年 13 巻 1 号 p. 19-34
セクシュアルハラスメントが減少しない原因の一つに社会の理解が未だ低水準にあることが挙げられる。多くの対策マニュアルや政府の指針ではセクシュアルハラスメントに該当しうる行為の事例が列挙されているだけで,なぜそれが防止すべきことなのかについては理解が得られにくい。セクシュアルハラスメントを根絶するためにまず必要なのは,セクシュアルハラスメントの本質とそれがもたらす害について社会的認知度を高めることである。本稿では,セクシュアルハラスメントとは何か,被害者にどのような害をもたらすかという問いを立てて,セクシュアルハラスメントを理解するための「4つの害(尊厳の害,性差別の害,労働の害,長期的な自己実現の害)アプローチ」を提示する。「4つの害アプローチ」は,構造的な観点を保持しながら,被害者の立場に立ってセクシュアルハラスメントの実態を総合的に捉える視点を与えると考える。