2022 年 13 巻 3 号 p. 94-101
貧困概念に関するセンとタウンゼントの論争はよく知られている。最近の議論でもリスターはこの論争を丁寧にレビューした上で,結論はタウンゼントに「近いが,(中略)普遍的・絶対的必要も認めている」。「ニードは歴史的・文化的文脈でのみ満足させられない」ということが重要だ,と折衷的に総括している。本報告では,貧困を自己決定の欠如という視点でみることにより,貧困概念を折衷的にではなく,統一的に理解できることを明らかにしたいと思う。そもそもこの議論は,貧困ではない状態が何なのか,をめぐって争われたとみるべきである。したがって,非貧困の概念を確立しなければならないが,センもタウンゼントも不十分だったと考える。そして,リスターのように折衷するのではなく,両者を包括した上位の概念を確立することが政策的にも必要である。そのことにより救貧法的枠組みを脱出する契機が発見できるのではないだろうか。