抄録
今日の日本の社会保障に関しては,分立型の国民皆保険皆年金体制の枠内での制度改革の限界が明らかになり,制度体系の再構築が不可避になってきている。そのための改革の構想は,様々な形で示されているものの,制度設計の基本原理や諸制度の有機的統合化の方向が明確にされていないという限界がしばしばみられる。このような認識に基づいて,本稿では,社会保障制度体系の再構築に向けての政策的論議の積極的な展開のために(1)普遍主義に基づく最低生活保障の体系化,(2)少子化対策の体系化の延長線上での子ども・家族政策の体系化が,その議論の主要な基軸とされるべきであるとの問題提起を行い,それに関わる基本的な論点の検討を行った。その上で,ベーシック・インカム論と子ども手当制度という二つの政策イシューを取り上げ,それらのイシューをめぐる論議にとって二つの「議論の基軸」の観点を取り入れることがどのような意味をもつのかを検討した。