抄録
小論の目的は,(1)健康格差と,(2)健康格差が生まれる経路に関する文献をレビューし,(3)社会政策の必要性と海外における事例を検討することである。社会疫学研究によって,(1)日本においても健康における社会経済的な格差があること,(2)社会経済格差拡大や介在要因としての社会的サポートやソーシャル・キャピタルのような「健康の社会的決定要因」から健康に至る複雑な影響経路が明らかにされてきた。(3)健康格差の縮小策として期待されるものにも,個人レベルと社会レベルのものとがあり,後者として社会政策は重要である。社会経済格差の是正やコミュニティのソーシャル・キャピタルを豊かにすることなどが必要である。海外での取り組み事例に学ぶと,教育,労働,所得保障政策など広い範囲の社会政策が健康政策になることがわかる。(a)上流にある根本的な原因へのアプローチ,(b)すべての政策において健康を考える,(c)環境への介入,という3つの考え方が根底にある。