抄録
本研究の目的は,現行の住宅セーフティネット施策がいまだ低所得者の住まいの問題に対応できていないことを指摘し,低所得層の居住権保障の課題を考察することである。まず,低所得者が賃貸住宅市場からはじき出されている実情をとらえる一つの切り口として,脱法ハウス居住者の実態調査から,(1)初期費用を工面できない,(2)家賃を支払うことができない,(3)保証人・緊急連絡先を頼める人がいない,(4)家賃債務保証会社を利用することができない,(5)不安定就労層の仕事の実情にあった住まいがないという,民間借家へのアクセス阻害要因を指摘した。一方,低所得者の住まいの問題に対処する住宅セーフティネット施策をみてみると,その二本柱である公的賃貸住宅供給,居住支援協議会がともに低所得層のニーズに対応できるものにはなっていないことが明らかになった。今後,公的賃貸住宅の供給増,初期費用および家賃補助,そして保証人・緊急連絡先問題への対応が課題となる。