抄録
欧州各国では,2009年,金融・経済危機の影響により財政赤字が急増した。一部の国では債務危機が生じ,財政健全化を条件にIMFやEUによる緊急支援が行われたが,債務危機の懸念が欧州全域に広がる中,他の国でも厳しい緊縮策が講じられ,社会支出も減少した。しかし,その程度は国や分野により異なる。本研究は,欧州諸国の社会支出の削減について,各制度の特徴と欧州の中長期的な改革の流れを組み合わせることにより,それらの間で危機の影響に違いが生じた要因を考察した。就労促進や持続可能性の確保が課題である所得保障,医療等の伝統的分野では,制度的に削減が容易な支出で大きく影響したが,老齢年金では,強い抵抗があり,削減されなかった。また,制度的に削減されやすい性質を持つ介護や家族児童の分野では,女性の労働参加への関心が低い南・東欧における介護・保育サービスや女性就労との関係が明確でない児童手当が大きな影響を受けた。