2017 年 9 巻 1 号 p. 29-47
本稿では,社会保険の問題点について,社会保険料と税負担に関する実証研究から検討する。具体的には,税及び各種社会保険料負担の所得に対する累進性とそれぞれの負担が近年の所得格差の変化にどのように影響を与えてきたかを検証し,次に,国民年金の未納について考察を行った。主な分析結果は,日本の社会保険料負担は,所得に対してほぼフラットな負担となっており,医療費の自己負担まで含めると逆進的な負担となっていた。しかしながら,近年,所得格差が拡大するなかで,社会保険料負担の増加は可処分所得の格差をむしろ縮小させていた。また,保険料未納問題に関して,低所得の無業と被用者では免除制度が機能している一方,所得が高くなっても納付率の変化は小さかった。最後に,雇用の非正規化による低所得の被用者が増加することで,本来の社会保険の機能がより重要となるため,被用者保険の適用拡大をより一層押し進めることを提案する。