本稿では,1959年に設立された農林年金が1970年代にどのような変化が生じたのかを,農業協同組合の労働生産性,賃金,事業構造や厚生年金,国家公務員共済組合との関係から検討するのが目的である。以下に主要な知見を述べる。第1に,労働者1人当たりの付加価値で計測された労働生産性に対しては信用事業の比重は正の影響を与えていたものの,農協の合併や共済事業の比重の拡大の効果は確認できなかった。第2に,農林年金は当初より掛金率が高かったこと,および積立方式が維持されたことから掛金率の引き上げはあまり行われることなかった。第3に,農林年金は農協労働者の賃金を踏まえれば高水準の年金給付を実現したことが分かった。最後に,厚生年金や国家公務員共済組合に準じた改定率や制度が農林年金に適用されたことから,分立的な公的年金制度が年金間の制度間競争をもたらし,年金給付を改善したことも分かった。