抄録
プロジェクトとは開始と終了(期限)があり,不確実性が高く,ユニークな成果物を創出する人が行う活動である.プロジェクトには人が活動する故に6つの人間心理的行動が潜む.隠れた安全余裕,予算と時間を与えられただけ使う,駆け込み作業,早く終わっても報告しない,マルチタスク,過剰管理である.プロジェクトは潜在的に遅れる要素がある.だからPMBOKといったプロジェクトマネジメント基盤が整備されてきた.にもかかわらずプロジェクトの納期遵守は多くの困難を伴い,典型的なITプロジェクトは83%が納期遅延,内18%は中止となっている.我々はCCPM(クリティカル・チエーン・プロジェクト・マネジメント)をプロジェクトへ適用することで従来の期間見積手法で設定したスケジュール(11ケ月間)から27.3%の期間短縮(8ケ月間)を実現した.同時にベンダーリソースの残業時間をCCPM適用前と比べて49.9%削減できた.CCPMとはTOCの考え方に基づき全体最適化の観点から開発されたプロジェクトマネジメント手法である.各タスクに含まれる安全余裕を取り除き,タスクの時間を短くする代わりに,工程の最後に「バッファ」を設け,集約して管理をする.プロジェクトマネージャは個々のタスクの進捗を管理するのではなく,工程の最後に付与したバッファの消費状況によってプロジェクト全体の進捗を把握する.我々は期間短縮を実現することで時間にゆとりを持ち,コスト削減も実現できたがこれは副次的効果と位置付ける.本論でITプロジェクトへCCPM適用が有効的であることを実証すると共に,CCPM適用による真の価値が人のモチベーション向上と成長であり,延いては成長する組織へ繋がることを論ずる.