抄録
X線非弾性散乱実験をカーボンナノチューブ(CNT)紡績糸中における CNT のフォノン群速度の解析に応用するため、試料の保持方法や測定条件などを検討する実験を行った。申請時の想定を超えた CNT 紡績糸からの弱い非弾性散乱信号を観測するためには、X線照射部の試料の高密度化と、試料以外の不要な散乱を十分抑制することの重要性を確認した。カプトン製の窓を有し、試料入射側にコリメータを設置した上で、内部をヘリウム置換できる測定チャンバーを設計・制作することにより、バックグラウンドが十分に抑制され、CNT からの非弾性散乱ピークと思われる信号を観測することに成功した。観測されたX線非弾性散乱スペクトルは、CNT のフォノン分散関係の一部と考えて矛盾がないものであった。CNT 紡績糸のフォノン群速度を議論するためには、フォノンの励起エネルギーの確からしさにくわえて、分散関係を議論するためのデータ点数が不十分である。本研究の目的を達成するためには、X線照射領域における CNT 紡績糸のさらなる高密度化と、スペクトルの統計精度を上げるための長い積算時間が必要であると考えられる。