SPring-8/SACLA利用研究成果集
Online ISSN : 2187-6886
最新号
SPring-8 Document D 2024-014
選択された号の論文の24件中1~24を表示しています
Section A
  • 田淵 大輝, 川上 恵典, 神谷 信夫
    2024 年 12 巻 5 号 p. 253-258
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/10/31
    ジャーナル オープンアクセス
     光化学系 II(PSII)は、植物やシアノバクテリアなどのチラコイド膜内に存在する膜蛋白質複合体で、太陽の光エネルギーを吸収して電荷分離・電子伝達反応を行うと共に、酸素発生中心である Mn4CaO5 クラスターで水を分解して酸素分子とプロトンを放出する。PSII の水分解反応及びプロトン放出機構を明らかにするためには、PSII 内の水素位置を同定することが重要な課題となる。しかし、これまでの研究で PSII の詳細な立体構造及びその構造変化が調べられているが、水素位置の同定は未だ行えていない。本研究では、水素位置の同定が容易とされる中性子結晶構造解析を行うため、磁場配向法によって複数の PSII 単結晶を配向させるための磁場印加条件を検討すると共に、作製した大型 PSII 単結晶の品質を BL38B1 での回折実験で評価した。
  • 辻 卓也, 松村 大樹, 小林 徹
    2024 年 12 巻 5 号 p. 259-262
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/10/31
    ジャーナル オープンアクセス
     2:1 型層状粘土鉱物には層を構成する陽イオンが同形置換することで層電荷を持ち、層間に陽イオンを取り込むことで電荷を補償する。また、層電荷の大小により異なる膨潤性を示す。風化黒雲母は比較的大きい層電荷をもつため膨潤性が低く、モンモリロナイトは層電荷が小さいため膨潤性が高い。アルミノケイ酸塩であるゼオライトは様々な細孔を持ち、その内部に水分子を持つ。これらの粘土鉱物中では、降雨等の環境の変化により異なるセシウム収着構造をとることが考えられるため、本研究では湿潤・乾燥・再湿潤状態の粘土鉱物試料に対し、Cs K 吸収端X線吸収分光 (X-ray Absorption Fine Structure, XAFS) 測定によりセシウム近傍の局所構造解析を行った。その結果、湿潤・乾燥試料においては水分子の存在により、一部の収着サイトではセシウムを収着しにくくなり、乾燥・再湿潤試料においては収着構造に差はなく、不可逆的にセシウムが収着していることが示唆された。
  • 山下 敦子, 安井 典久
    2024 年 12 巻 5 号 p. 263-266
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/10/31
    ジャーナル オープンアクセス
     亜鉛イオンは、様々な受容体に作用し、その機能を制御する例が知られている。本研究では、甘味受容体やうま味受容体を構成するタンパク質である T1r の中で、結晶構造解析が可能なメダカ T1r2a/T1r3 リガンド結合ドメインを利用して、亜鉛イオン結合能の有無をX線結晶構造解析により調べた。その結果、同タンパク質分子表面への亜鉛イオン結合を示唆する結果を得たが、結合による機能制御の可能性については明確とならず、また結合部位はメダカ T1r2a/T1r3 特異的である可能性が示唆された。
  • Jonathan Pelliciari, Kenji Ishii, Shriram Ramanathan, Riccardo Comin
    2024 年 12 巻 5 号 p. 267-270
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/10/31
    ジャーナル オープンアクセス
     Recent developments in the field of superconductivity place nickelates at the forefront of the materials studied in condensed matter physics. The discovery of superconductivity under doping, pressure, and in thin films in multiple families of nickelates renewed the interest into their electronic and magnetic properties.[1-3] Here we perform an investigation of Ni-K edge x-ray absorption and Kβ x-ray emission spectroscopy in thin films of NdNiO3 as a function of temperature and doping. NdNiO3 is a benchmark quantum material displaying a metal-to-insulator transition concomitant with the appearance of magnetic ordering tunable under oxygen treatment.[4] Electronically the resistivity of NdNiO3 raises significantly with the concomitant with the suppression of the magnetic order. The oxygen treatment acts as doping changing the oxidation state of nickel. Our study reveals the effective change of the nickel oxidation state from Ni3+ to Ni2+ and the concomitant change of spin state upon doping proving that oxygen annealing electron doped the system at the nickel site.[5] From the temperature dependence study, we observe little change between 10 K and 300 K indicating that the local electronic effects on nickel and magnetic ordering act at lower energies compared to any spin state transitions. Overall, our work proves the feasibility of XAS and XES hard x-ray experiments on thin films and shows their effectiveness to map the electronic and magnetic structure of nickel oxides.
  • 平野 優, 木村 成伸, 三木 邦夫, 玉田 太郎
    2024 年 12 巻 5 号 p. 271-274
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/10/31
    ジャーナル オープンアクセス
     NADH-シトクロム b5 還元酵素(b5R)は細胞内酸化還元バランスを保つ役割を持ち、脂質合成や生体異物の酸化など様々な代謝反応への電子供給源となることが報告されている。BL44XU を利用した回折実験により、酸素存在下で不安定な性質を持つ二電子還元型 b5R の 1 Å 分解能を超える高分解能X線結晶構造解析に成功した。補因子に結合する水素原子の電子密度を観測し、二電子還元型の立体構造を決定した。
  • 渡邊 誠也, 宮本 直樹, 櫻田 誠, 澤田 純明, 上野 易弘
    2024 年 12 巻 5 号 p. 275-279
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/10/31
    ジャーナル オープンアクセス
     焼骨片は重要な法科学的資料であり、事件捜査において人獣鑑別を求められることがある。本研究では放射光X線 CT 法によりヒトや各種動物の微細焼骨片について非破壊かつ短時間に骨組織断面像を取得した。その後ハバース管断面とオステオン断面の面積比 (H-On 示数) を指標として比較を行ったところ高い識別能が示された。本手法は、微細焼骨片を非破壊かつ高分解能で断面像撮影ができる点において、従来の樹脂包埋法に比べ優れた法科学鑑定法である可能性が示唆された。
  • 宮本 直樹, 渡邊 誠也, 星野 真人
    2024 年 12 巻 5 号 p. 280-285
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/10/31
    ジャーナル オープンアクセス
     電気火災時に生成される電線の溶融痕は、火災熱による熱的溶融痕、短絡など電気的原因による電気的溶融痕がある。また、電気的溶融痕には出火元である一次痕、延焼によって生じた二次痕がある。これらを判別する方法は、溶融痕内部の空孔(ボイド)の発生状況から可能であるといわれている。そこで、BL28B2 の放射光X線 CT 法を用いて、非破壊で溶融痕の内部観察を試みた結果、電気的溶融痕と熱的溶融痕のボイドに大きな差異が認められ、放射光X線 CT 法が溶融痕の判別に有効であると示唆された。
  • 山本 勝宏, 吉森 健一
    2024 年 12 巻 5 号 p. 286-290
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/10/31
    ジャーナル オープンアクセス
     圧力印加 SAXS 測定によってポリスチレン-b-ポリイソブチルアクリレートの相挙動を観測した。SAXS プロファイルにおいて、相分離構造からの散乱ピークが消失する温度あるいは圧力が存在し、相分離状態から相溶状態への転移(ODT)ではなく、両相の電子密度が単に一致する状態であることが分かった。コントラストマッチングは両相の等温圧縮率を考慮することで定性的にも理解ができることが分かった。また ODT も観測される領域も見いだされ、上限臨界秩序・無秩序転移および下限臨界無秩序・秩序転移が合わせもつ系であることも分かった。
  • 若林 勇希, Yoshiharu Krockenberger, 山神 光平, 和達 大樹, 芝田 悟朗, 藤森 淳, 河村 直己, 鈴木 基 ...
    2024 年 12 巻 5 号 p. 291-293
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/10/31
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究では、高温強磁性酸化物 Sr3OsO6 の電子状態を明らかにすることを目的として、Os L2,3 吸収端におけるX線吸収分光(XAS)及びX線磁気円二色性(XMCD)測定を行った。実験結果から、Os の軌道磁気モーメントがスピン磁気モーメントと比較して同オーダーの大きさを持つことが明らかになった。しかし、XMCD 総和則による推定では、Os の全磁気モーメントは SQUID 磁化測定の値よりもかなり小さかった。今後の課題としては、Sr や O の吸収端での XMCD 測定による磁気モーメントの観測や、サンプルの経時変化を低減させるための対策が挙げられる。
  • 東 正樹, 清水 啓佑, 重松 圭
    2024 年 12 巻 5 号 p. 294-297
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/10/31
    ジャーナル オープンアクセス
     室温強磁性体であるAサイト秩序型四重ペロブスカイト LnCu3Mn4O12Ln:希土類元素)薄膜のうち、Ln = Ce は 400 K を超える高い転移温度を持つ。フェリ磁性秩序する Cu, Mn の磁気モーメントを XMCD で求め、Ln3+ の場合には Mn3.75+ であるのに対し、Ce は4価であるために Mn が 3.5 価になっており、4μB の大きいモーメントを持つ事を確かめた。
  • 秋葉 勇, 関口 博史
    2024 年 12 巻 5 号 p. 298-302
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/10/31
    ジャーナル オープンアクセス
     エポキシ樹脂の硬化過程で生じる内部の不均一性を直径 10 nm のナノダイヤモンド (ND) をプローブとした回折X線追跡 (DXT) 法を用いて検討した。DXT から得られた ND の平均回転拡散係数は、硬化の進行とともに低下したことから、ND をプローブとした DXT が、エポキシ樹脂の硬化過程を追跡するために有効なツールであることが分かった。ND の回転拡散係数の分布の硬化時間に対する変化は、重合による架橋構造の形成と架橋の高密度化が段階的に進行することを示した。
  • 丹羽 健, 福井 陸, 深井 俊史, Gaida Nico Alexander
    2024 年 12 巻 5 号 p. 303-307
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/10/31
    ジャーナル オープンアクセス
     窒化炭素の超高圧下における相関係の解明および新物質合成を目指して、様々な CN 系前駆体を用いた超高圧実験に取り組んでいる。その中でも本研究では、50 GPa までの範囲で graphitic-CNX の圧力温度安定性および反応性が高い超臨界窒素流体との反応を調べた。光学顕微鏡観察、ラマン散乱測定、高圧その場 XRD 測定を行ったところ、graphitic-CNX 単体は NaCl 中の加熱ではダイアモンドと窒素に熱分解し、窒素媒体中であればわずかに混入した水素によって C2N2(NH) が安定相として生成することがわかった。
  • 緒方 英明, 由里本 博也, 坂井 康能
    2024 年 12 巻 5 号 p. 308-310
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/31
    ジャーナル オープンアクセス
     メタンモノオキシゲナーゼ (MMO) はメタンをメタノールに変換する酵素である。本課題では、メタン酸化反応機構を解明する目的で、活性中心を含むと考えられるドメインを縮小化した pMMO を設計し得られた結晶のX線回折実験を行った。
  • 福谷 充輝, 橋詰 賢, 森下 義隆, 水口 暢章, 下澤 結花, 小野 宗隆, 國松 汐帆, 中西 美瑚, 江間 諒一, 八木 直人
    2024 年 12 巻 5 号 p. 311-315
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/10/31
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究では、骨格筋の生理的な状態が維持されている生体を対象としてクロスブリッジ動態を検証するため、SPring-8 のX線小角散乱を用いて筋収縮関連タンパク質の構造変化を捉える手法の確立を目的とした。麻酔状態下でラットのヒラメ筋を表出させ、ヒラメ筋の停止部である踵骨の一部を残して切断し、筋力計とモーターに固定した。この状態で電気刺激により筋収縮を誘発している最中にX線を照射し散乱画像を取得した。その結果、筋の横断面の格子構造情報を含む赤道反射 (1.0、1.1反射) は、これまでに広く行われている摘出筋を対象とした実験と比べて同様の値が得られたため、本手法の有用性を示すことが出来た。
  • 石井 賢司
    2024 年 12 巻 5 号 p. 316-319
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/31
    ジャーナル オープンアクセス
     高エネルギー分解能蛍光検出X線吸収分光(HERFD-XAS)は、寿命幅によるスペクトルの広がりを抑制した高エネルギー分解能のX線吸収分光として利用が拡大してきている。数多くの実験が行われている 10 keV 程度以下よりも高エネルギーに蛍光X線を有する 4d 遷移金属(Mo、Pd)について、現状の装置・設備で HERFD-XAS を実施し、実験の可能性の検証、課題の抽出を行った。Mo については HERFD-XAS の計測には成功したものの、10 keV 程度と比べて2桁以上の強度低下があった。この強度低下は蛍光X線を分光する結晶の反射率、検出器の量子効率に起因すると考えられる。Pd については十分なシグナルノイズ比が得られず、HERFD-XAS は計測できなかった。
  • 新山 真由美, 秋葉 宏樹, アファナシェヴァ アリーナ, 長尾 知生子, 水口 賢司, 鎌田 春彦
    2024 年 12 巻 5 号 p. 320-324
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/10/31
    ジャーナル オープンアクセス
     ウテログロビン (UG) はほとんどの脊椎動物に存在する分子量 16 kDa の球状タンパク質である。これまでに天然型のヒト UG (hUG) の構造は解かれているが、PDB への登録がなく詳細なアミノ酸同士の相互作用はよく分かっていない。そこで本研究ではリコンビナントの hUG (rhUG) のX線結晶構造解析を行った。その結果、rhUG は4本の α ヘリックスからなるモノマー2分子が逆平行に配向してホモ二量体を形成しており、モノマー間でのジスルフィド結合や塩橋、水素結合により安定化していることが分かった。また、ホモ二量体の中心部には疎水空間が存在しており、この疎水空間に化合物を内包することで rhUG をドラッグキャリアとして利用できるのではないかと考え、4種類の抗がん剤と rhUG との共結晶化と構造解析を試みた。
  • 小林 映斗, 二田 晴也, 佃 菜桜, 峰 明日香, 西垣 颯, 横山 武蔵, 吉田 翔伍, 俣野 和明, 川崎 慎司, 石井 賢司, 鄭 ...
    2024 年 12 巻 5 号 p. 325-328
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/10/31
    ジャーナル オープンアクセス
     トポロジカル超伝導候補物質 CuxBi2Se3 における非従来型超伝導と結晶対称性の関係を明らかにするため、自作のピエゾ駆動型一軸応力セル及び制御システム一式を BL11XU ビームラインに持ち込み、室温で一軸応力下結晶構造解析を試みた。岡山大学において事前に Cu0.2Bi2Se3 単結晶を固定したセルを専用治具により非弾性X線散乱装置の四軸回折計部に取り付け、ピエゾ素子に電圧を印加し、試料に一軸応力を加えた状態での (0 0 l) や (0 k l) 反射ピークのシフトから格子ひずみの観測に初めて成功した。
Section B
Section SACLA
  • 下條 竜夫, 西江 樹, 田中 義人, 仁王頭 明伸, 永谷 清信, 山村 涼介, 高橋 修, 富樫 格, 大和田 成起, ベルーナ A., ...
    2024 年 12 巻 5 号 p. 351-354
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/10/31
    ジャーナル オープンアクセス
     SACLA BL1 において、軟X線自由電子レーザーを用いたポンプ・プローブ分光法により、トリフルオロヨードメタン(CF3I)の I 4d 光電子スペクトル時間分解測定を行った。その結果、2つの光が時間的に重なったときに起こる内殻電子放出現象である LAPE (レーザー支援光電効果) により、二つの光子エネルギーの和周波と差周波の両方に対応するエネルギーを持った光電子を観測することに成功した。さらに、内殻光電子の強度変化を解析することにより、二光子励起により励起した CF3I の B 励起状態の分子振動の考察を行った。
  • 田中 良和, 久保田 雄也, 田中 義人, 近藤 啓介, 岡部 純幸, 泉 瞭, 池田 周平, 久保 壮生, Chia-Nung Kuo, ...
    2024 年 12 巻 5 号 p. 355-357
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/10/31
    ジャーナル オープンアクセス
     In order to elucidate the nature of charge density wave (CDW) order in LaAgSb2, we have performed an ultrafast pump and probe x-ray diffraction experiment at BL3 in SACLA. CDW reflection 1-τ1 0 7 was observed in a geometry that the incident x-ray beam was inclined to the sample surface at sample temperature T = 80 K, which is low enough for the CDW transition. The effect of the optical pump laser on the intensity and the width of CDW reflection 1-τ1 0 7 was unclear because of the low count rate and the crystal quality of the sample surface. In the same way, the integrated intensity of the CDW reflection 1-τ1 0 7 did not show any signature of CDW order melting as a function of the time delay to the pump laser pulse with a high fluence.
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