SPring-8/SACLA利用研究成果集
Online ISSN : 2187-6886
10 巻, 6 号
SPring-8 Document D 2022-017
選択された号の論文の19件中1~19を表示しています
Section A
  • 矢嶋 摂子, 増永 啓康, 佐々木 園
    2022 年 10 巻 6 号 p. 485-487
    発行日: 2022/12/28
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
     イオンセンサーの感応部位として使用したオルガノゲルの構造を明らかにし、センサーの応答性の原因を調べることを目的として、アミド部位を2つ備えたゲル化剤を用いたオルガノゲルおよびアルカリ金属塩を添加したゲルのX線散乱を測定した。その結果、イオンセンサーで感度よく応答するカリウムイオン存在下ではゲルの構造がほとんど変化せず、応答が観察されないリチウムイオン存在下ではゲルの構造を保持できていないことがわかった。
  • Kosmas Prassides, Yuka Moritoki, Yasuhiro Takabayashi
    2022 年 10 巻 6 号 p. 488-490
    発行日: 2022/12/28
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
     Molecular solids with cooperative electronic properties based purely on π electrons from carbon atoms offer a fertile ground in the search for exotic states of matter, including unconventional superconductivity and quantum magnetism. In particular, mild synthetic conditions allowed isolation of crystalline alkali metal polyaromatic hydrocarbon solids derived from phenanthrene that emerged as excellent candidates of quantum spin liquids. The purpose of the present experiments was to investigate the temperature response of the crystalline structures of both alkali phenantride salts and their analogues derived from our attempts to intercalate other polyaromatic hydrocarbons.
  • 藤原 佑気, 福井 宏之, 有馬 寛, 大髙 理, 平尾 直久, 上椙 真之, 竹内 晃久
    2022 年 10 巻 6 号 p. 491-495
    発行日: 2022/12/28
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
     GeO2 ガラスの圧縮挙動をX線 CT 法により測定した。ヘリウム雰囲気で加圧すると、加圧の初期において体積はほとんど変わらなかった。これはヘリウムが GeO2 ガラス内に侵入したためだと思われる。更なる加圧により、3 GPa 付近から体積減少が確認された。これは GeO2 ガラスの局所構造変化に対応した圧縮メカニズムの変化と考えられるが、変化が起こった圧力は、非ヘリウム媒体を用いた際に観測される圧力よりも低い圧力であった。
  • 岩本 裕之
    2022 年 10 巻 6 号 p. 496-498
    発行日: 2022/12/28
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
     金箔をプレスすることで作成した単凹レンズの集光光学系を用いて、BL40XU ビームラインにおいて従来最小であった 2 µm 径よりもさらに小さい、1 µm 以下のビーム径を実現することを目標として試験を行った。レンズの形状エラーや BL40XU 固有の高調波の問題もあり、予想されたビーム径は得られなかったが、半値幅で 1.54 µm のビームを得ることができた。また単純にピンホールによってマイクロビームを得るのと異なり、サンプルを光学系から大きく離すことができるので、測定レイアウトの自由度が大きく増すことになる。
  • 豊田 智史, 梶野 雄太, 山本 知樹, 首藤 大器, 野瀬 惣市, 水野 勇, 住田 弘祐, 三根生 晋, 町田 雅武, 横山 和司
    2022 年 10 巻 6 号 p. 499-503
    発行日: 2022/12/28
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
     環境型光電子分光法 (NAP-XPS: Near Ambient Pressure X-ray Photoelectron Spectroscopy) は、超高真空下ではなく、準大気圧領域の環境下にて、試料の化学状態を観測する手法であり、近年特に触媒、電池分野において注目されている手法である。しかしながら、環境下では試料のスパッタリングが行えないため、試料の表面の状態観測に限られていた。
     試料の表面から内部までの深さ方向の化学状態分析を可能とする有力な手法として、硬X線光電子分光法(HAXPES: HArd X-ray Photoelectron Spectroscopy)が挙げられる。HAXPES は近年の放射光の高輝度化と共に大きく成長を遂げてきた手法である。HAXPES は高いエネルギーの励起光を用いることにより、飛び出す光電子の運動エネルギーを大きくすることによって、検出深度を稼ぎ、非破壊で試料の内部の情報を得ることができるという特徴を持つ。一方で、高い運動エネルギーの光電子を検出する為には、検出器に印加する電圧の負荷も大きくなり、放電を防ぐ為には良好な真空状態を必要とされる。
     BL24XU ではこの二つの手法を組み合わせた、準大気圧領域の環境型硬X線光電子分光 (NAP-HAXPES: Near Ambient Pressure Hard X-ray Photoelectron Spectroscopy) を導入し、環境下において表面から深い領域までの化学状態の観測を可能としている[1]。本課題では NAP-HAXPES の更なる技術展開をめざして、時分割角度分解 (TARPES: Time division and Angle Resolved Photoelectron Spectroscopy) スペクトルデータ解析技術を開発し、多層積層膜界面深さ分布の時空間可視化に挑戦した。
  • 裏出 令子, 伊中 浩治, 古林 直樹, 加茂 昌之
    2022 年 10 巻 6 号 p. 504-506
    発行日: 2022/12/28
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
     小胞体分子シャペロン ER-60 はアルツハイマー病の原因と考えられているアミロイド β ペプチド(Aβ)の線維化を阻害する。線維化の阻害は、ER-60 の bb’ 領域が Aβ のアミノ末端から28残基目までの領域と結合することによる。また、結晶構造解析により、bb’ の境界領域に Aβ1-28 が一定の決まった配位ではなくフレキシブルな結合様式で結合することが明らかとなった。本研究では、Aβ1-28 が結合する bb’ の境界領域表面に存在するアミノ酸残基のうちチロシン182をアラニンに置換した変異体と Aβ1-28 複合体の構造解析を行った。
  • 宮嶋 孝夫, 清木 良麻, 近藤 剣, 下山 晴樹, 鶴田 一樹, 三好 実, 池山 和希, 竹内 哲也
    2022 年 10 巻 6 号 p. 507-509
    発行日: 2022/12/28
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
     窒化物系面発光レーザの導電性分布ブラック反射鏡材料として期待されている窒化物系混晶半導体 Al0.82In0.18N 中の Al 原子近傍の局所構造を、X線吸収微細構造法により解析した。その結果、Al0.82In0.18N を構成する In-N と Al-N のボンド長が 14% も異なることで相分離を起こし易いにもかかわらず、以前報告した In 原子の場合と同様に、Al 原子は理想的な窒化物半導体におけるIII族原子位置を占有していると考えられる。
  • 佐藤 慎, 打田 正輝, 小谷 佳範, 中澤 佑介, 西早 辰一, 松野 丈夫, 中村 哲也, 川﨑 雅司
    2022 年 10 巻 6 号 p. 510-512
    発行日: 2022/12/28
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
     ディラック半金属に強磁性秩序を誘起すると、ディラック点がワイル点へと分裂しその電子状態・磁気状態が大きく変化すると予測される。典型的なディラック半金属である Cd3As2 の薄膜を強磁性絶縁体基板上に作製すると、磁気近接効果により強磁性状態を誘起できることがわかってきた。本研究では、この Cd3As2 と強磁性絶縁体とのヘテロ界面における磁気近接効果をX線磁気円二色性の測定により評価した。
  • 関本 祐紀, 筒井 智嗣, Min-Cherl Jung, 中村 雅一
    2022 年 10 巻 6 号 p. 513-520
    発行日: 2022/12/28
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
     X線非弾性散乱実験をカーボンナノチューブ(CNT)紡績糸中における CNT のフォノン群速度の解析に応用するため、試料の保持方法や測定条件などを検討する実験を行った。申請時の想定を超えた CNT 紡績糸からの弱い非弾性散乱信号を観測するためには、X線照射部の試料の高密度化と、試料以外の不要な散乱を十分抑制することの重要性を確認した。カプトン製の窓を有し、試料入射側にコリメータを設置した上で、内部をヘリウム置換できる測定チャンバーを設計・制作することにより、バックグラウンドが十分に抑制され、CNT からの非弾性散乱ピークと思われる信号を観測することに成功した。観測されたX線非弾性散乱スペクトルは、CNT のフォノン分散関係の一部と考えて矛盾がないものであった。CNT 紡績糸のフォノン群速度を議論するためには、フォノンの励起エネルギーの確からしさにくわえて、分散関係を議論するためのデータ点数が不十分である。本研究の目的を達成するためには、X線照射領域における CNT 紡績糸のさらなる高密度化と、スペクトルの統計精度を上げるための長い積算時間が必要であると考えられる。
  • 原田 俊太, 小坂 直輝, 筒井 智嗣, 田中 克志, 田川 美穂, 宇治原 徹
    2022 年 10 巻 6 号 p. 521-523
    発行日: 2022/12/28
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
     ルチル型酸化チタンにおいて酸素欠損が生じると、酸素欠損を含む面欠陥が周期的に配列するシア構造と呼ばれる構造となることが知られている。このような面欠陥の周期配列によって生じる、フォノンの分散関係の変化を調べるために、本研究では比較のために、面欠陥の周期配列を含まないルチル型酸化チタンのフォノン分散を非弾性X線散乱によって測定した。(121)方向に沿ったフォノン分散測定の結果、40 meV 以下のエネルギー領域において3つのフォノンモードを観測することができた。
  • 篭島 靖, 赤田 樹, 池田 匠
    2022 年 10 巻 6 号 p. 524-529
    発行日: 2022/12/28
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
     本実験ではタンデムスリット光学系を用いた位相空間強度分布測定により、アンジュレーター放射光の鉛直方向のビーム特性評価を試みた。タンデムスリットの2次元走査により計測した2次元強度分布から上流スリットのフラウンホーファー回折と下流スリットの開口幅の影響をデコンボリューション様の方法で除去し、ビームサイズと角度発散を求めた。鉛直方向のビームエミッタンスは 0.21 nm∙rad となり、分光器の振動を考慮した計算値(0.029 nm⋅rad)より約7倍大きい値となった。今後、正確な測定法や解析方法の改善が課題となった。
Section B
  • 深野 達雄, 野崎 洋, 舟山 啓太, 勝野 高志, 小金澤 智之, 原田 雅史, 川浦 宏之
    2022 年 10 巻 6 号 p. 530-535
    発行日: 2022/12/28
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
     YBa2Cu3O7-δ (YBCO)超電導膜用バッファ層としての CeO2 膜を、スパッタ成膜条件を変えてサファイア基板上に作製し、二次元微小角入射広角X線回折法を利用して表面近傍の膜深さ方向の <1 0 0> 優先配向性を評価した。実験室系の結晶優先配向性の評価では、CeO2 膜は厚い方が表面近傍の配向度は高いと推定されたが、本研究では、表面近傍の優先配向性の乱れは、膜厚の薄い方が小さい傾向を示し、スパッタガス種を純 Ar から10%O2-Ar に変更することで優先配向性の乱れを小さくできることも分かった。しかし、高品質な YBCO 超電導膜を得ることが可能な CeO2 バッファ層の成膜条件を選択するまでには至らなかった。
  • 谷田 肇, 松本 匡史, 今井 英人, 大沢 仁志, 加藤 和男, 伊奈 稔哲
    2022 年 10 巻 6 号 p. 536-539
    発行日: 2022/12/28
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
     リチウムイオン二次電池の正極材料におけるリチウム挿入脱離プロセスのメカニズム解明を目的とし、電気化学反応と同程度のタイムスケールの高速時間分解 XAFS 法の開発と適用を試みた。測定試料に任意の電圧を印加し、その上で矩形型の電圧を印加することで測定試料に構造変化を誘発し、それを透過 XAFS により計測することができる。Li(NiMnCo)O2 正極材料に適用したところ、Mn の局所構造に僅かな変化を観測した。
  • 松本 匡史, 今井 英人, 田巻 孝敬, Anil Kumar Gopinathan, 山口 猛央
    2022 年 10 巻 6 号 p. 540-544
    発行日: 2022/12/28
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
     ギ酸(ギ酸塩)を用いた燃料電池に使用される電極触媒開発のため、ギ酸(ギ酸塩)の酸化反応を解析する手法として、オペランド XAFS 適用の可能性について検討した。アルカリ型ギ酸塩燃料電池において効率が高いと期待されるパラジウム(Pd)系触媒に対して、Pd-K オペランド XAFS 測定を実施し、ギ酸塩の含まれない水溶液中、および、ギ酸塩が含まれる水溶液中で XANES スペクトルに差異が認められた。反応中間生成物、表面酸化物の生成とその相互作用が捉えられていると考えられ、オペランド XAFS が、Pd 上のギ酸反応メカニズムの解析に有効であることが確認できた。
  • 横溝 臣智
    2022 年 10 巻 6 号 p. 545-549
    発行日: 2022/12/28
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究では、Ti K と Cu K の各吸収端近傍で照射X線のエネルギーを走査しながら静電半球型電子分光器を用いてオージェ電子のエネルギー分布を測定し、特定のエネルギー範囲を抽出することで、複数の化学状態の同一元素が混在する場合に化学状態別のX線吸収微細構造(XAFS)スペクトルが得られるか検討した。
  • 松本 匡史, 柿沼 克良, 犬飼 潤治, 今井 英人
    2022 年 10 巻 6 号 p. 550-554
    発行日: 2022/12/28
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
     次世代燃料電池自動車においては、さらなる高効率化を目指し高温運転に対応した次世代燃料電池が搭載される見込みである。高温下の酸性雰囲気下でも耐久性に優れた SnO2 や TiO2 などのセラミックナノ粒子を担体とした Pt 触媒の開発が進められており、耐久性だけでなく触媒活性も従来のカーボン担体 Pt 触媒を超える触媒も合成されてきている。本研究では、セラミック担体 Pt 触媒の高活性要因として重要なインパクトを持っていると考えられる触媒担体界面、触媒電子状態、および、担体表面の構造・物性を理解することを目的とし、それぞれ硬X線光電子分光、X線吸収分光法、放射光赤外分光を用いて、セラミック担体 Pt 触媒の電子状態や構造について解析した。その結果、SnO2 担体と Pt 触媒粒子の界面における Pt 粒子から SnO2 担体への電子供与や PtSn 合金の形成、Pt ナノ粒子の構造の変化、Pt/Nb-SnO2 上には、官能基種がカーボン担体と比べて非常に少ないことが明らかになった。セラミック担体と Pt 粒子の界面の相互作用によるこのような特徴的な触媒構造の形成が、高活性の要因に効果を及ぼしていると考えられる。
Section SACLA
Section Erratum
feedback
Top